「たまごクラブ」「ひよこクラブ」や「いぬのきもち」「ねこのきもち」などのメディアで、ママや家族をターゲットに、大手広告代理店や関連したクライアントを担当する、法人向けの広告営業のチームを率いる株式会社ベネッセコーポレーション Kids&Family事業本部 企画開発部の夏坂 奈菜子氏。
グループリーダーとして営業メンバーをけん引しながら、プライベートでは双子のママとして日々奮闘する夏坂氏に、これまでのキャリアを振り返ってもらいながら、出産を経験することで変わった価値観や営業に対する思いなどについて伺った。
これまでのキャリアについて教えて下さい。
夏坂 奈菜子氏大学院で文学部修士課程を経て、新卒として新聞社系の広告代理店に就職し、3年ほどして現在の株式会社ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)へ転職、ここで初めての営業を経験しました。入社後に結婚、双子の出産を経験し、育休から復帰後は内勤中心の企画職に2年ほど従事し、組織変更のタイミングで現在の営業職に戻っています。
現在は大手広告代理店及び関連したクライアントを担当する法人営業ユニットのグループリーダーをしており、「たまごクラブ」や「ひよこクラブ」などの育児メディアをはじめ、「bizmom」「WOMEN’S PARK」「サンキュ!」などの主婦向けメディア、「いぬのきもち」「ねこのきもち」などファミリー向けメディアなど各種媒体を扱っています。
転職をご経験されていますが、その理由について教えて下さい。
夏坂 奈菜子氏もともと広告代理店に就職したのは、様々なメディアを駆使してお客さまの課題解決を支援できるような仕事をしたいと思っていたからなのですが、配属されたのは新聞部で、新聞媒体社と営業をつなぐ社内での調整部門でした。
たとえ得意先さまの案件がフィットしないものであっても、自分が担当している媒体社の新聞しかお勧めできない状態で、当時から葛藤がありました。代理店なのに他にいいものがあってもお勧めできないのであれば、多くの媒体を持つ媒体社自体の広告営業になったほうが割り切って仕事ができるのではと考えたのです。
また院卒で卒業後3年ほど経過し、ちょうど20代後半に差し掛かっていましたことも転職を決意した理由の1つです。私がいた新聞部は毎日校了日がやってくるような多忙な部署で、このままだと結婚したり子供を産んだりといったことが難しいのではと考えたのです。
ベネッセは女性でお子さんがいても働いている方が大勢いるイメージで、女性向けや子育てに関する媒体も展開していたことから、将来の予習もできるのではないかと興味を持ち、転職を決意しました。
営業に従事する中でつらかったことはありますか。
夏坂 奈菜子氏転職前は社内の営業から相談される立場で、相談も掲載する新聞社にするという社内折衝の立場でしたので、課題があれば担当している新聞社に赴いて要望をぶつけ、最終的には押し切るか泣き落とすか、という感じでした(笑)。
しかし、新しい環境では、当然取引先から直接要望が寄せられますし、交渉するのは社内の編集部。結局板挟みになることも多く、入社後しばらくは手探りの状態が続きました。調整の仕方に苦労したのですが、ここでは、ヒアリングしたお客さまの課題を自分でかみ砕いた上で社内の適切な部署に相談し、課題に対するお薬みたいなものを処方していくのが営業だということを学びました。
だからこそ、お客さまに相談してもらえる土壌を作る、信頼関係を作るということに注力すべきだということに気付いたのです。
以前の環境とは大きく変わったわけですね。
夏坂 奈菜子氏そうですね。自分に与えられた宿題を解くために、自分で参考書を取りに行って解いていくという立場に初めて自分が置かれたような感覚でした。交渉ルートの違いで成立することもあり、抜け道も含めていろいろ模索していくことができるのは、以前とは大きく異なります。自分で選択して仕事が進められるようになった分、逆にルートがなくなって手詰まりになることもあるのですが…。
一方で、その経験も踏まえて次の案件に応用してみてうまくいくこともあるので、楽しく仕事ができるようになったような気がします。自分も媒体社の一員として、自社が持つブランドや商品に対する思いに案件がフィットするかどうかも考えながら、判断を他人にゆだねることなく、自分の意見や思いを乗せられるところが大きな魅力の1つです。
宿題を解くために誤った参考書をチョイスしてしまったことはありますか。
夏坂 奈菜子氏もちろんあります。我々は扱っている媒体も多く、全媒体を網羅する広告掲載基準やアライアンス基準が整備されており、それに沿ったメニューがたくさん用意されています。
以前は、このメニューにない相談をされると単純にお断りしていたのです。でも実際には、お客さまのやりたいことの大枠が引き出せれば、その内容にメニューをフィットさせていくことも可能なのです。
ただ、若い頃は杓子定規にメニューになければどんどん断ってしまい、代替え案がぱっと出てこずに苦労しました。本当なら長いお付き合いができた取引先もあったと思いますが、選ぶ参考書を間違えてしまったがゆえに、門前払いをしてしまった案件が多々あったはずです。
ご自身における人生の転機について教えて下さい。
夏坂 奈菜子氏自分の中での優先順位がガラッと変わったのが、やはり出産で、大きく影響しています。産休に入る時はすぐに職場復帰したいと思っていましたが、生まれた後は復帰したくなくなりましたし(笑)。
保育園に迎えに行って「ママ―」って走ってこられると、自分が必要とされていることを実感します。その結果、子供との時間を確保するために仕事をどう分配するのかという意識に変わりました。実際に育児のほうは全然効率よくできませんでしたが、それ以外の面ではTO DOをしっかり消化していくようになりました。
また、以前に比べて割とあきらめがよくなった気がします。以前はいつまでも時間をかけて細かく蛍光ペンで線を引きながら資料を読んでいましたが、今はタブレットでパーっと読んで大事そうなところだけメモを取るような感じです。
周りからも変化について指摘されますか。
夏坂 奈菜子氏指摘されますし、今は自らブランディングを変えています。以前はなんでも細かく対応していましたが、今は「ゆっくり完璧なものを欲しいか、8割程度で即答が欲しいか選んで下さい」と聞いています。
私が担当しているクライアントやメンバーからは、即答が求められるため、「数多く処理するので最後の詰めは自分でやって下さい」という仕事の仕方に変えました。というか、変えざるを得なかったというのはありますが。
出産後、職場に営業として戻る際に葛藤はありましたか。
夏坂 奈菜子氏当然担当するクライアントがいて、アポイントも日々入ることになるため、もし子供が突然熱を出して休まないといけなくなった場合はどうするのか、といったことは当然考えました。
実際には企画職として復帰することになったため、そういう意味では半内勤のような勤務形態でした。その後、2年後の組織変更で、結果として営業職に戻ることになったのです。
ただし、企画職だった2年の間に、育児と仕事の両立をある程度経験できたことは大きかったですね。急な発熱があった場合、双子なのでお互い離れるのが難しく、もう1人のほうは潜伏期間後ピッタリに熱を出すことがパターンとして把握できたのです。水疱瘡なら10日後にもう1人が発症しますし、インフルエンザなら3日後。
最初は苦労しましたが、そのパターンが見えてくると、事前に義理の母や私の母に準備をしてもらい、病児保育なども手配するなど、うまく対応できるようになっていました。
お子さんが生まれて営業に変化は生まれましたか?
夏坂 奈菜子氏入社当初は自分が好きだった生活情報の媒体を担当していましたが、産休明けには育児系の媒体もすべて同じ部署で取り扱うことになったのです。
以前は正直、育児系の媒体に対して苦手意識があったのですが、いざ自分が子育てしてみると、媒体で紹介されている記事やWebサイトでユーザー同士が盛り上がっていることなどについて、理解できるようになったのです。
営業の場面で取引先から母親の気持ちに関して話が出ると、「あなたが言うなら確かにそうなのかなと思う」と言っていただける場面が多くなりました。取引先にも共感いただけるような紹介の仕方ができるなど、仕事の幅が広がったなと思えるようになりました。
育児に不安を感じている働く女性に向けてアドバイスをいただけますか。
夏坂 奈菜子氏私は30歳頃、産休に入ったのですが、同年代はバリバリ働いており、妊娠中も出産後に復帰した後も、周囲より早く帰ることになるため、最初は後ろめたさを感じることもありました。
しかも、子供の具合によっては急に休みをもらって仕事をお願いするだけでなく、子供の行事に合わせて計画的に有休を取得したりもします。上司は寛容でしたが、どうしても「休んでばかりいると思われているのでは?」という被害妄想的な感覚が出てくるものです。
私の場合、双子のママが集まるランチ会を違う部署のメンバーと開催し、「他の部署でもみんな休んでいるから大丈夫」と励まされ、とても救われました。
今は後輩が妊娠、出産する機会が増えていますが、自分の頃よりもキャリアを積んだ状態のメンバーが多く、仕事の範囲も責任も大きなケースがあります。休める時に休んでもらいたいのですが、休むことが逆に精神的な負担になる性格の人もいるため、その場合はできる範囲で仕事を持ち帰ってもらうなど、臨機応変にアドバイスしています。
今はノートPCで自宅でも作業が進められるため、本人に負担のないような方法を周囲が支援してあげることが大事だと思います。
今後の働き方について教えて下さい。
夏坂 奈菜子氏子供が3歳ぐらいになってしゃべるようになり「お仕事行かないで」みたいなことを言われてしまうと、あまりに可愛くて仕事を辞めようと思ったことも。
でも、子供たちに仕事を辞めてずっと家にいてもいいか尋ねると、口達者な娘に「私も保育園で忙しいんだから、ママもさぼっちゃだめだよ」と言われてしまいました。その時は笑ってしまいましたが、私が働いていることが、子供にとっては普通のことなんだと分かったんです。
小学校に上がる時に子供達が将来の夢について話す機会があり、「自分もパパとママみたいに、ちゃんと学校に行って好きな仕事をしたい」と。そうなると、さぼっているところを子供に見せるわけにはいきません。多少寂しい思いをさせていると感じることもありますが、仕事を辞めてしまうと示しがつかない部分もあります。そんな子供の思いをこれからも裏切らないようにしたいと思っています。
文:酒井 洋和 写真:山本 中
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この記事の情報は公開時点のものです。