井上 和幸氏インタビュー“やり切る”ことが自信につながる 営業リーダーが経営人材になるために必要なこと

平成の始まりとともにキャリアをスタートさせ、リクルートにて人事部門や広報部門、学び領域の事業部を経て人材コンサルティングベンチャーに転職、経営参画。更にリクルート子会社への転職を経て、現在は株式会社 経営者JPを起業し、経営者やリーダー人材の紹介を行うエグゼクティブサーチ事業やコンサルティング事業を手掛けている井上 和幸氏。井上氏が歩んできたキャリアを振り返りながら、多くの経営者と交流する井上氏が考える、経営人材として求められる資質について尋ねました。

井上 和幸氏

【1】大きな事件の渦中で社会人がスタート…
これまで歩んできたキャリア

ご自身が歩んできたキャリアについて教えて下さい。

井上 和幸氏やんわりとしたマスコミ志向もあって早稲田大学政治経済学部に入学、就職活動では広告代理店の内定もいただきましたが、人の魅力と「事業的にも何をやるか分からない」魅力に引き付けられて(笑)、卒業後の1989年(平成元年)にリクルートに入社しました。先日元号が令和に改まりましたが、私の社会人歴は平成とともにスタートしたわけです。

実は内定が決まった年にリクルート事件が発覚し、世間に注目された時期でもありました。ただ、メディアでのバッシングとは違う、リクルートで働く先輩達のまじめな姿を目の当たりにして、むしろ一緒に働きたいという思いが強く沸き上がり、内定を辞退することなく入社を決断したのです。848名入社した同期は、皆、同じ決断だったと思います。

最初は人材開発室(人事部門)に配属されリクルートの採用を4年ほど担当、その後は、広報室を経て、進学領域の事業部へ異動して新規事業立ち上げを経験し、2000年1月にリクルートを退職しました。

2010年に今の会社を起業するまでは、私の同期が起業していたベンチャーやリクルートが手掛ける経営幹部人材の転職支援を行う株式会社リクルート・エックス(現在のリクルートエグゼクティブエージェント)にジョインするなど、いくつかの会社を経験しています。

井上 和幸氏

進学領域の事業で新規事業を経験されているというお話ですが、どんな事業を立ち上げたのでしょうか。

井上 和幸氏実はリクルートに入社してから人事や広報という本社部門を歩んできたこともあり、稼ぐ事業部門を経験したいと考え、毎回、自己申告を出していました。そんな折、新規事業を立ち上げるプロジェクトが動き出していた進学・学び領域の事業ラインへの異動辞令を受けました。

そこでは、社会人向けの学びを支援するキャリアスクールや専門学校の広報雑誌『仕事の教室』の立ち上げに加わりました。仕事の教室では、紙の情報誌だけでなく、リクルートの他の情報誌に先駆けてWebサイトも新たに立ち上げたのですが、当時は編集予算から勝手にお金をねん出し、Webサイトを作ったという経緯があります。もちろん事後に承認をいただきましたが、リクルートが展開する情報誌の中でも、かなり早い段階でWebサイトを手掛けることになりました。

その後は、リクルートの中で事業部横断のポータルサイト「ISIZE」を構築するというプロジェクトが始まり、インターネット推進課が学び事業部の中に設置され、紙の編集や事業企画を手掛けるメディアプロデュースとインターネット推進を兼務することになったのです。

ここでインターネット系のビジネスを経験したことが、その後の転職につながっていくことになるのですが、ちょうど30歳を超えたころ、リクルート自体は入社した当時と比べて自分の中では感覚的に大企業的な存在となってきていました。同時に新しいことにチャレンジしたいという思いもあり、たまたま同期が起業していた採用代行などを手掛ける人材コンサルティングベンチャーに参画したのです。

そこでは、採用関連のDBをシステム化して企業の採用活動を支援するようなモデルを構築し、採用活動のプランニングから説明会の実施なども含め、採用に関する業務管理をアウトソースで請け負う仕事を行っていました。

井上 和幸氏

最終的には今の経営者育成などの事業を手掛けるべく起業されていますが、なぜその事業を手掛けることになったのでしょうか。

井上 和幸氏もともとベンチャー時代に、自社の幹部人材の採用に自分自身が課題を持っており、エグゼクティブ向けは新たな事業になるとアイデアを温めていたのです。その企業を退職するタイミングでリクルート時代の先輩からお声がけいただき、当時その彼がプロジェクトとして参加していたリクルート・エックス(現在のリクルートエグゼクティブエージェント)にてコンサルタントをすることになったのです。

リクルート時代は新卒採用を手掛け、そして中途採用についても様々な媒体を駆使してのノウハウは持っていたものの、幹部採用は未経験の領域。エグゼクティブサーチに関する事業そのものを学ぶ意味でも、いい経験ができたと思っています。

【2】暗中模索の中で“やり切る”ことの大切さを学ぶ…
キャリア最大の苦労

ご自身のキャリアの中で、最もご苦労された経験について教えて下さい。

井上 和幸氏ベンチャー時代も苦労しましたが、一番大変だったのは20代の終わりを過ごしたリクルートの学び事業部のころ。情報誌から情報を切り出してムック本に展開する際に何冊か媒体責任者としても関わりましたが、同時に兼任していたインターネット推進局でISIZEの設計をゼロから行っていました。
当時は社内に誰もWebサイトの設計に関するノウハウを持っておらず、答えが分からない中で答えを探す日々が、結果としては2年近く続くことに。月刊情報誌やムック編集というクリエイティブなことを行いながら、一方でロジックが求められるWebサイト設計を手掛ける。しかも、紙とWebという両極端のことを兼務することがとても大変でした。Webサイトビジネスでは誰もノウハウがなく、ゴールの見えない日々の中でメンタル的にも非常にきつかった思い出があります。

井上 和幸氏

そこから学んだことはどんなことでしょう。

井上 和幸氏先人達のノウハウもなく、どこに向かえばいいのかのゴールもない。そんなお手上げ状況にあって、もう辞めてやろうと敵前逃亡しかねない気持ちもあったのは事実ですが、何とかローンチまで漕ぎつけることができました。今でも、人生に闇というものがあるのであれば、この時のことが頭に浮かびます(笑)。よくトンネルの先に光があるなんて言う表現がありますが、当時は“光なんてどこに?”みたいな心境でしたよ。

あくまで結果論ですが、「兎に角、わけが分からなくてもやり切る」ことは大事だということを学びました。ゴールが見えなくてもやり切ることで、結果として学びにつながり、その後の自信につながると思います。のちにベンチャー企業で億単位の開発プロジェクトに関わるなど、忙しい日々が続くことになりますが、当時の苦闘があったからこそ自信をもってプロジェクトを推進することができました。

分からなくても“やり切る”ことは大事なんですね

井上 和幸氏今の仕事柄、経営者の方にお会いする機会も多いですが、活躍されている方々を見ていると、実は、順風満帆に生きてきている人はほとんどおらず、左遷されたり子会社で苦労したりといった大変な経験を乗り越えている人達が、優秀な経営者や事業をけん引する幹部になっているものです。

井上 和幸氏

例えば、転職したばかりなのに、ちょっと辛いことがあったという理由から早々に当社へご相談に来る方もいらっしゃいますが、確かに方針が変わったり会社の状況がよくなかったりといった環境の変化はあるにせよ、選んだのは本人。本音で言えば、もう少しやり切ってみたら?と思うことも少なくありません。私は今、30代から50代の幹部の方々を相手にしていますが、特に20代や30代前半までの頃であれば、とにかく分からなくてもやり切ってみることで、見えてくるものがあるはずです。

【3】問いを解くのか、はたまた作るのか…
経営人材と幹部人材の違い

今求められているリーダー像、経営者とはどんなものだとお考えでしょうか。

井上 和幸氏役割としては、振り子のように揺り戻しがあるように感じています。大雑把に言えば、昭和の時代はそれなりの経験を積んだ方が上に立ち、親分肌で包容力も発揮しながら、向かうべき方向を指し示すイメージ。その後、平成に入って日本は成熟期に突入し、時代の変化に合わせて求められるリーダー像も変わってきています。

最近は上司としてメンバーを引っ張り上げるよりも、優しく聞いてあげる伴走型、いわゆるサーバント・リーダーシップと呼ばれるものが大きな潮流で、これまでの率先垂範型のリーダーシップから傾聴型のリーダーシップに変わってきています。その一方で、信念をもって方向を指し示すような人物が減っているようにも感じています。
令和に入り様々なことが大きく構造変化し始めている今、改めて、しっかりとメンバーの声を聞いたり意味を教えてあげたりしながらも、より強い信念をもってメンバーを導く強いリーダーが求められてくると思っています。

井上 和幸氏

どのような形で示していくことがよいとお考えでしょうか。

井上 和幸氏最近改めて注目されているビジョンやミッションという視点が重要だと考えています。世代を超えて様々な経営者にお会いする機会がありますが、物言いはとても柔らかいものの、信念という意味ではとても強いものを持っているケースが多く見受けられます。

これからの時代を引っ張っていくと思われる企業も、ミッションドリブン、テーマドリブンなところが多い。レガシーな会社がダメだと言いたいわけではありませんが、今は “みんなのためにこれを普及させたい”といった強烈な思いから起業する方が増えているように感じています。

営業リーダーであっても、ミッションやテーマが重要というわけですね。

井上 和幸氏今の若手の中には、意味や意義が見いだせないことは避ける傾向にある方も少なくありません。だからこそ、テーマドリブンな視点が今の営業リーダーに求められています。
単に新規の電話かけを新人に強いるのではなく、新規の顧客がどんな一次反応をするのか、まずは肌で知るための時間として新規の電話をたくさんかけてみては?と説明する。電話をたくさん掛けることの意味、テーマをしっかりと説明する、そういったマネージメントが求められているのです。

営業リーダーである幹部人材と部門長や経営層に求められる資質の違いはどんなところにありますか。

井上 和幸氏特に中間管理職である主任や課長、部長などの幹部人材は、経営が立てたお題が解ける、問いに応えることができる人だと考えています。売上目標というお題が決定したら、自分だけでなくメンバーも含めて試行錯誤しながら、目標を達成していく。それができなければ、基本的には優秀な幹部になることは難しいでしょう。

逆に、事業部長や執行役員といった経営人材は、問い自体を作ることができる人です。今の市況の中で10億を売るべきなのか、今後どんな分野に進出していくべきなのかといった、その問い自体を作っていけることが求められます。幹部人材と経営人材では、使う筋肉が全然違うわけです。

営業リーダーが経営人材になるためには、やはり顧客や市場をしっかり見ることが必要で、そこにテーマや志、ビジョン、自分なりの使命を持つことで、会社における問いを作ることができるようになるはずです。

井上 和幸氏

ご自身の座右の銘があれば教えて下さい。

井上 和幸氏いくつかあるのですが、その中の1つが「大胆かつ細心、強引にして柔軟、自由かつ誠実」です。変にバランスをとるということではなく、両極端を見ることはとても大事だと考えています。

世界的にヒットした書籍『ビジョナリー・カンパニー』の中に「ANDの才能を活かす」というのがあります。世界的に成功を収めている偉大な企業では、両極にある考え方をトレードオフに捉えるのではなく、どちらもしっかりと見据えるというもの。大局的な理念を追いかけながらも、商業的な理念もしっかり追求するということが重要だというのがあり、まさに座右の銘に通じる部分があると考えています。

最後に、読者である営業リーダーにアドバイスいただけますでしょうか。

井上 和幸氏若いうちから何をしていくべきなのか、常に自分と向き合いながら考えていくことが必要です。いろんな情報はもちろん見て触れておくべきですが、別のいいものを見つけたらすぐに飛びつくのではなく、今ある状況を徹底的にやり切る経験、何かを成し遂げる経験をしっかり身につけてもらいたいと思います。

井上 和幸 著書

『社長になる人の条件』(日本実業出版社)
これから求められる人材はリーダー人材であり、この時代を生きるビジネスパーソンは皆、リーダーを目指しましょう、という提唱だけでなく、著者が自ら20,000名超の経営者・経営幹部と対面してきた実体験に基づき、「トップリーダーの基礎力」から「コミュニケーション」「チームの動かし方」「戦略力」まで、どうしたらトップリーダーになれるのか、実行に移せるノウハウがたっぷり詰まった1冊。

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文:酒井 洋和  写真:山本 中

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