太田 彩子氏インタビュー専業主婦、ズタボロから売れる営業に 女性営業が活躍できる社会に貢献したい

女性営業が約3600人集まる「営業部女子課*」の主宰として、営業女子のネットワークづくりや能力・キャリア開発などの教育事業、行政とのコラボレーションなど多方面で活躍中の太田彩子氏。もとは株式会社リクルートで数々の賞を受賞した敏腕営業パーソンであり、独立後には会社を起業し、上場企業の取締役や内閣府の「子ども・子育て会議」委員を経験するなど、そのキャリアはまばゆいばかり。しかしリクルートに入社後しばらくは、スケジュールは真っ白、「自分には無理」とため息ばかりの日々だったと言います。そんな太田氏が営業に目覚め、実績をあげられるようになるまでには、どのような物語があったのでしょうか。

*営業部女子課:一般社団法人 営業部女子課の会

太田 彩子氏

【1】大学生から専業主婦、そしてズタボロの営業時代

太田さんが社会人としてキャリアをスタートされた頃のお話を聞かせて下さい。

太田 彩子氏実は社会人スタートは「専業主婦」だったんです。大学3年の時に結婚・出産を経験しました。テスト休み中に子供を生んだので留年はせず、同級生が就活をしていた4年生の頃は子育てに奮闘していました。なかなかハードな生活でしたが、若いってすばらしいですよね(笑)。出産というライフイベントを経験したのは幸せで喜ばしいことではあったのですが、そのまま専業主婦になった頃は、周りを見るにつけ「私の人生どうなっちゃうの?」という焦りと不安でいっぱいでした。

子育てや家事の合間に資格をとったり、ちょっとした仕事をしたりはしましたが、経済的な事情やしっかり「働きたい」「働かなきゃ」と思い、いろんな会社に履歴書を送り、面接をしまくりました。
でも、当時は、日本企業のほとんどが「子持ち」と聞くとその場でアウト。まして私は就業経験がなかったのでアピールすらできず、ゼロからというより、マイナスからのスタートだったわけです。

そんな中で、たまたま拾って下さったのがリクルートでした。本当に当時の上司には今も頭が上がりません。でもリクルートという会社って、どこか苦労人というか、変わった経歴の人が好きなところがあるようなんですよね。ただ、そうやって私の営業人生がはじまったわけなので、好きで営業を選んだわけでも、誰かにひっぱられたわけでもなく、“生きるために”やらざるを得なかっただけなんです。

でも、ご経歴ではMVP賞も取られていて、実は営業に向いていたということですよね。

太田 彩子氏いいえ、最初はズタボロでした…。
私が持っていた営業のイメージは、企画やマーケティングをしながら、お客様にご提案するというものでしたが、現実は全く違いました。ビル内の会社を上から下まで訪問する“ビル倒し”も“飛び込みキャンペーン”もやりました。すごく嫌な顔をされるし、怒られるし、人生でこんなにダメ出しされたのは初めてで、心が折れました。「絶対向いてない、やめてやる!」って離職を何度決意したことか。

太田 彩子氏

今思えば、マインドセットができていなかったんですよね。「行きなさい」と言われるから、嫌々でもとりあえず行く。なぜ行くのか、なぜ怒られるのか、意味も分からず、自分の意思がなかったのです。だから毎日が苦行で、成績もズタボロ。アポのない真っ白なスケジュールを眺めながら、毎日どうやって時間を潰そうかばかり考えていました。

【2】MVPに輝く営業へ変貌した「3つのマインドセット」

太田 彩子氏

いったい何が太田さんを変えたんですか。きっかけはどのようなことだったのでしょうか。

太田 彩子氏いろんなことがありましたが、その中の1つは、抜群の成績を出していた先輩に相談した時に「必死にやってないでしょう。一度くらい本気になってみれば」と指摘されたことでしょうか。
そこではたと気づいたのが、自分は、できないことを全部他人のせいにしていたということです。「どうせこんな商品売れない」「新規って言われても先輩が開拓した後だし」というように、すべての矢印が外に向いていました。

先輩の「一度、自分だけに集中してみなさい」という言葉を聞いて、とりあえず何も考えず、行動することだけに集中しました。先輩を観察してみると、スケジュールはびっしりだし、いつも電話でお客様と仲良さそうに話をしている。その内容は雑談と思いきや、お客様の仕事に関するものばかり。まずはそれを真似してみようと。
そうしているうちに、営業は『お客様の仕事を知ること』が大切なのだとやっと気づいたんです。これが2つ目ですね。それで業界紙を買って読んだりするうちに、どのような課題があるのかを知るようになりました。

そして3つ目として、何より心がけたのは“売らないこと”です。

太田 彩子氏

“売らないこと”ですか? 営業は売ることが仕事ですよね。

太田 彩子氏ええ、まさに私もそう思っていて、“売れない自分”を責めてばかりいました。でも、ある時上司に「今日は売らなくていいよ」と言われて、肩の力がふっと抜けたように感じました。それで、断られてもいいから話を聞こう、会話を楽しもうとしているうちに、「そういえば…」とお客様から相談されるようになり、課題や情報が拾えるようになってきたんです。
「これならできるかも」と思っていたら、だんだんノルマも達成できるようになって、賞もいただけるようになりました。こんな風にアドバイスに素直に従えたのは、自分に自信がなくて、ないないづくしだったからだと思います。何か実績があったら、変なプライドが邪魔をしていたかもしれません。

【3】各企業の女性営業が活躍できる社会に貢献したい

リクルートから独立しようと思われたのは、どのような理由からですか。

太田 彩子氏もともと親戚に女性の経営者がいて、私が20歳の頃に「あなたも地に足をつけて事業をやりなさい。これからは女性の時代がやってくるから」と言われたことがあったんです。当時はまったく意味が分からなかったのですが、だんだんと営業の仕事に自信が生まれ、担当していたオーナー系の企業のお客様の話を伺ううちに、ふとその言葉を思い出し、賞を3回とったら独立しようと考えるようになりました。

それが2005年で、翌年に株式会社ベレフェクトを立ち上げました。
起業して改めて世の中を見渡すと、リクルートには優秀な女性の営業担当者が多かったのに対して、他社では女性営業すらおらず、ほぼ営業部門は男性社会ということに気づいたんです。女性は社内に数えるほどか紅一点で、「営業の仕事は好き」だけど「この会社で営業を続けていくイメージがわかない」と口をそろえておっしゃる。ロールモデルもいないし働き方改革もない頃で、“営業は男性の仕事”という無意識な固定観念があったんですね。
「これは大問題だ!」と勝手に危機意識を感じて、孤独になりがちな女性の営業担当者が横断的に繋がれる場を作ろうと決意し、2009年に「営業部女子課」を立ち上げました。

太田 彩子氏

そこからは、快進撃ですね。どのような活動から始まったのですか。

太田 彩子氏いえいえ、最初は他の会社の会議室を使って5人程度の小さな勉強会からスタートし、細々と始めました。それでも、うれしかったのが「待ってました!」という声をいただいたことです。「私は会社で初の営業なんです」「後輩女性が辞めて営業では女性は私1人」とか、そういう立場の人ばかり。そもそも、働き方のルールが男性仕様だし、根性論がまかり通り、飲み会、長時間労働、顧客のためには休日出勤が当たり前など、様々な問題が吹き出すとともに、参加者の間にシンパシーがわーっと生まれました。
その後、“営業女子”というキーワードで、徐々に口コミで広がっていったのです。最初は個人的な悩み相談会でしたが、今は変化する社会の中で、営業女子としての価値を確実に出せるような勉強会の開催から、社会に訴えかけていく活動まで、幅広く動いています。

【4】達成経験が宝になる!自由に生きるために自分らしく働き続ける

大変な時期もあったと思いますが、今振り返って、その時期、ご自分に一番必要だったことは何だと思われますか?

太田 彩子氏売れない暗黒時代の私に最も必要だったと思うのは「マインドセット」ですね。「どうせ?」のオンパレードで、考え方の歪みを是正するのに時間がかかりましたし、必死に訓練もしました。訓練としては、まず売れている営業職の方の本、業界分析の本、心をリセットする本や認知心理学の本など、とにかく本を読みました。そして身近な先輩に加えて、事例などに登場する営業職の方の真似を徹底的にやってみました。

そして中途半端になりそうな時は、自分を応援してくれている人のことを考えるようにしました。誰かが子どもをしっかり見ていてくれる。上司や先輩が時間をかけて指導してくれる。私が適当な気持ちで仕事をしていたら、そうした方に失礼でしょう。そう考えたら、もう手抜きはできないと思いました。

太田 彩子氏

営業部女子課に参加される皆さんも“売れない”悩みが多いのでしょうか。

太田 彩子氏はい、短期的な悩みとしてはそれが一番多いです。そこで営業部女子課では、“達成女子”というキーワードを掲げて、そのための様々な工夫や行動指針などを共有し、セミナーも開催しています。
女性はどうしても妊娠・出産など不確定要素が多く、キャリアでは一時的な制限がある時期もあるので、動けるうちに経験値をできるだけ積んで達成経験を自分の中で持っておくことが大切だと思うのです。それで自信がつけば、行動にもつながり、ブランクがあっても、必ず将来の武器になる。達成経験が宝になる日が必ず来ます。

具体的な方法としては、会社から与えられた目標を、自分の目標に置き換えることが有効です。例えば、“売上のノルマを達成する”ではなく、“1日5社の担当者と会話を楽しむ”というように、自分の行動目標に置き換え、それを達成していくわけです。

太田 彩子氏真

女性の場合、長期的なキャリアの悩みもあります。そんな方々に是非メッセージをいただければと思います。

太田 彩子氏まず、“仕事を辞めないこと”を前提にしてほしいです。一旦キャリアから外れてしまうと思考を戻すのが大変です。妊娠・出産中も細くていいから仕事との糸は切らないようにしましょう。その次の目標は自立のために“稼ぐこと”。稼ぐ力は生きていくために不可欠であり、絶対に裏切りません。

営業部女子課に参加いただいた女性で、育児と仕事の両立に苦労して会社を辞めようとしていた方がいました。しかし突然配偶者を病気でなくされた際には「仕事を続けていて本当によかった」とおっしゃっていました。人生には不確実なことがたくさんあります。自由に生きるためにも、自分や家族が食べていけるぐらいに稼げることが必要でしょう。

今、若い女性の専業主婦願望が高まり、高学歴でも一般職を希望する人が増えていると聞きます。おそらく営業職にも未だに昭和の男性社会時代のイメージが強いのでしょう。でも、今は断然変わってきているのに!そして自分達で変えていけるのに!と声を大にして伝えたいです。
営業部女子課でも“どう私らしく働くか”といった、自分のキャリア観やライフステージに合わせた働き方を模索する話題が多いです。そして“自分らしく働く”は男女問わず重要な課題になっています。そうした好機が到来していることを知っていただきたいですね。

太田 彩子 著書

「営業女子 働き方の基本がわかる教科書」(プレジデント社)
現役の営業女子、営業職への就職や転職を考えている女性に向けて、仕事のノウハウや働き方の工夫、心の持ち方などを解説。特にライフイベントで働き方を変えざるを得ないことの多い女性ならではの目線と経験に基づくアドバイスは、自分らしく働きたいと考えている女性はもちろん、パートナーとなる男性にも示唆を与えるものとなっている。

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文:伊藤 真美  写真:山本 中

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この記事の情報は公開時点のものです。

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