営業リーダーに必要なのは「強い」メンタルではなく「しなやか」なメンタル

チームを率いるリーダーともなれば、未来に向けた希望や意欲だけでなく、様々な不安や不満が同居するもの。それは新しい環境に遭遇した人なら当然感じるものではないでしょうか?実は、そう感じている今こそ、新しい局面を打開するための「メンタル」を育むチャンスなのです。では、リーダーとしてどのようなメンタルを育むべきなのでしょうか?そして、そのメソッドとしてのメンタルトレーニングとは?まずは、陥りがちな誤解や思い込みを払拭します。

田中ウルヴェ 京氏

【1】リーダーに求められるメンタルとは?

「リーダーのメンタルは強くあるべき」が誤解を生む

営業職は楽しくやりがいがある反面、ストレスも多い仕事です。行き詰まる顧客折衝や緊張するプレゼンなどを制し、しっかりと成果を出してきたあなたは、もしかすると、これまでの自分のことを「そこそこメンタルが強い」と評価しているかもしれません。もちろん自分のことを肯定的に評価できることは良いことです。しかし、このように個人の実力において成功経験がある人ほど、リーダーになった途端、これまでにない課題を感じ、己のメンタルの弱さを自覚することも少なくありません。残念なことに個人で成果を出してきた人ほど、チームでうまくいかないと落ち込みが大きいケースも多いのです。

そもそも「メンタルの強さ」については、世間的に少々誤解されている気配があります。苦難に立ち向かい、人の中傷や批判にも傷つかず、ライバルを蹴落とし、その強靭さはまるで鋼鉄のよう――。そう評される状態を「メンタルが強い」と思ってはいませんか。

実際、鋼鉄のようなメンタルの持ち主は「自分でなんとかできること」にはめっぽう強く、ブルドーザーのように障害をもろともせず押し進めていくパワーがあります。しかし「自分でコントロールできないこと」には、極端に弱いことがあります。つまり、他人に関することで問題が生じると、途端にイライラしたり、自己嫌悪に陥ったり、ストレスを感じるようになるというわけです。

そして、強くあり続けようとした結果、誰かを叩きのめして潰すか、耐えて耐えた後に本人がポッキリと折れてしまいます。そこには勝者はおらず、チーム内も殺伐としたものになるなどして、たとえ得られても成果は一時的に終わるでしょう。

最強の「しなやかなメンタル」は自分で育てられる

それでは、私達はどのような「最強のメンタル」を目指すべきなのでしょうか。

心理学的に考えれば、時と場合に応じて変化する「しなやかなメンタル」が“最強”といえます。例えるなら、水のように形状や色、温度まで変幻自在でありながら、それでいて水であることは変わらない、そんなイメージです。

もちろんリーダーだって人間ですから、悲しい時もあれば、自尊心を傷つけられてムッとすることだってある。しかし、それを常に無視したり、押し込めたりしていては、結果的に身体にも悪影響を及ぼし、疲弊します。当然ながら、見境なく感情を爆発させたり、落ち込んで戻ってこれなくなったりするのも問題です。

ではどうすればいいのか。自分の日々の感情の機微を自覚し、それを自分の中で受け止め、その上で自他にとって最も建設的な行動を選択する。そうした「感情、思考、行動のプロセス」のなかで、しなやかな強さを作っていくことが大切なのです。

そのしなやかな強さは、営業スキルと同様に、トレーニングで鍛えることが可能です。大切なことなのでもう一度言いますね。あなた自身の手で「しなやかなメンタル」は育てられるのです。

【2】心の健康のために必要な「メンタルトレーニング」

心が健康であることが「しなやかさ」の大前提

それではしなやかなメンタルを育み、鍛える「メンタルトレーニング」とはどのようなものでしょうか。その具体的なメソッドについては、各回ごとに紹介していきますが、その前に、是非ともメソッドをこなすことだけに陥らないよう、目指すべきイメージをもっておいていただければと思います。

すなわちメンタルトレーニングとは、「心の健康維持・健康増進」が主目的です。健康な身体があってこそ、マラソンに向いた身体づくりができるように、健康な心がベースにあってこそ、「営業リーダーとしてのしなやかなメンタル」へと鍛えることができます。まずは自分の心の健康が維持されていることが前提なので、それを忘れないようにしましょう。

そして日々の生活の中で無意識に筋肉を動かしているように、心もまた様々な経験から気付きを得て、その蓄積があって変化し成長していきます。その上で、さらに効果的に「なりたい自分」になるために、たとえば健康維持のために1駅歩く、毎日10kmのロードワークに出るというように、”意識的に”負荷をかけるのがトレーニングと考えると分かりよいでしょう。

営業リーダーやマネージャーになってイライラしたり、落ち込んだりするのはむしろ自然なことです。これまでは個人戦で、今度は団体戦というように、ルールが異なる競技に出ることになったと考えれば、鍛えるべき箇所が変わるのは必然といえるでしょう。それこそ、今までは強みだったことが、弱点になることも出てきます。

そういった「人生の変化」を、むしろ、新しく自分の心を知る機会と捉え、それに真摯に向き合えば、人間としても確実に成長できている実感を持てるはずです。当然、そこに成果も伴うことになるでしょう。スポーツでもビジネスでも、「自分が成長している実感をともなった成果」ほど、大切な成果はありません。ぜひ、メンタルトレーニングを自らの習慣として、取り入れてみて下さい。

田中ウルヴェ 京 著書

『人生最強の自分に出会う 7日間ノート 超一流のメンタルをつくる感情整理プログラム』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ストレスの多いビジネスシーンにおいて、いざという時にも動じない最強のメンタルを手に入れるためには「自身の心を知ること」が第一歩。そうした心理学研究に基づくコーピング理論のもと、考え方のクセやストレスのタイプを知り、感情を整理するための方法を、7日間のレクチャー方式で紹介している。実際に書き込める記入シートが多数用意されており、手にとったその日から自分の手でメンタルトレーニングを実践することができる。

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この連載の著者

田中ウルヴェ京

ソウルオリンピック シンクロ・デュエット銅メダリスト。日・仏・米でシンクロ代表チームのコーチを歴任し、米国セントメリーズカレッジ大学院(修士修了)、その後アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で、認知行動療法や競技引退後の心理、パフォーマンスエンハンスメントを学ぶ。帰国後2001年より、プロスポーツ選手から一般までメンタルトレーニングの指導、および企業研修、講演等を行い、パラリンピック車いすバスケットボール男子日本代表チームやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)のメンタルコーチ、また報道番組レギュラーコメンテーターも務める。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。2017年、IOCマーケティング委員に就任。夫はフランス人、一男一女の母。