マネージャーとして慣れてきたものの、自分の将来に漠然とした不安を感じるように…。

実際に悩みを抱えている方のご相談ごとに、京先生から具体的なアドバイスをいただくケーススタディ編。今回は、マネジメント業務にようやく慣れてきたという営業マネージャー3年目のTさんのお悩み、「将来への漠然とした不安」についてお答えいただきます。

田中ウルヴェ 京氏
相談

「やりたいこと」を実現している友人を見て
自分の将来について漠然とした不安を感じます。

  • 相談者:Tさん(36歳 営業マネージャー3年目)
営業マネージャーになって3年目。マネジメントの仕事にもようやく慣れてきたものの、あまりの忙しさに時間だけがただ過ぎ去るような日々を過ごしています。そんな時に、大学時代の仲間が会社を辞めて、ずっとやりたかったというカフェを開業したと聞きました。思えば私は大学を出てなんとなく今の会社に入り、それなりに頑張ってきたつもりでしたが、友人の開業の話を聞いてから心が落ち着かず「自分はこのままでいいのか?」と不安と焦りを感じています。

【1】京先生よりアドバイス:
不安は改めて新しい一歩を踏み出すための原動力

将来に対して「不安」を感じているんですね。あえて言いましょう。おめでとうございます!それは、本当にすばらしいことなんです。

不安であるということは、自分の人生について、将来について興味を持っているということですよね。「先のことなんて、どうにかなるでしょ!今が楽しければ!」という人よりも、よっぽどあなたは、真剣に考えているとも考えられます。
そして、もしかすると、今のあなたは、多少なりとも今の仕事に落ち着いてきて、余裕がある状態なのかもしれません。実際、あなたはマネージャー職に就いてしばらくは、1日1日に必死で、将来に不安を感じる余裕もなく頑張ってきたはず。つまり、新しい一歩を踏み出す準備ができているからこそ、不安を感じているのだとも考えられるのです。

そもそも私達の人生は、いつ何が起こるかわからないわけですから、不安を感じることは自然なことですよね。将来に起こるトラブルを予期できないからこそ、想像すればするほど不安は募ります。その意味で、誰でも多かれ少なかれ不安を感じているのです。

しかし、問題なのは「不安に取り憑かれてしまうこと」。すなわち「不安の感情に不安になること」です。そこから脱却するためには、まずはその不安を見つめてみましょう。すると「先を越された気がする」「今やっていることが間違いかも」といった「不安のもと」が見えてきませんか。ご友人の今後のことは、この際どうでもいいこと。その話を聞いた時に、あなたがなぜそのように感じたのか、その理由を突き止めることが大切です。

もし、「やりたいことをやれていない」と言うのなら、「やりたいこと」を明確化すれば、現実的な解決策としての第一歩を踏み出すことができるでしょう。例えば、カフェを開きたいならば店舗経営の勉強を始める、海外移住をしたいのならば英会話を習う、などです。そして、実は「今やっていること」がそれであることも少なくないのです。

【2】京先生よりアドバイス:
「やりたいこと」が人生の目的とは限らない

しかし、おそらくあなたは「カフェをやりたい」わけではないですよね(笑)。ここからは推測になりますが、あなたは「自分がやりたいことが分からない」から不安なのではないでしょうか。実はしっかり仕事をしている人ほど、そうした不安を感じる傾向があるのです。何かをやろうという意欲があるからこそ、「好きなこと、やりたいことをしなければならないのではないか」と思ってしまうのですね。

世の中には「やりたいことをやろう」というメッセージが溢れています。でも、「やりたいことをやっているように見える人」も決してそうではなかったりします。起業家もアーティストも、そしてアスリートも、「やりたいことをやっている」とは限らないわけです。

そう言うとオリンピック選手などについて、「あんなに厳しい練習を続けられるのは、やりたいことをやっているからではないですか?」と質問されます。確かに「やりたいことをやる」だけで、ずっとやる気が続けばどんなに幸せでしょうか。

やる気の源泉については、内発的・外発的という分け方をすることがあります。「好きだからやりたいと思う気持ち」は内発的ですばらしい、「お金や賞賛などのために」という外発的なやる気の源泉を悪いものとする人もいますが、何より大切なことは「やる気があろうがなかろうが、やり続けること」ですよね。人はやる気を感じていると充足感を感じます。でも、そのやる気が内発的なものでなくても、人は頑張れるし、幸せになれるのです。

そもそも、やりたいことを探しに自分探しの旅に出るという人がいますが、旅に出て気づくでしょう。じつは、その旅で本当に「旅した」のは他でもない、「自分自身の内側への旅だった」ということを。やりたいことは自分と向き合うことによって発見できたりするものです。そして、興味深いことに、やりたいと思うことが見つかれば、ずっとやる気が続くと思いきや、決してそんなことはありません。やる気は常に変化し、体調や環境によっても左右されるからです。

例えば、水泳を続けられているのは「水泳が好きだから」なら内発的、「痩せたいから」なら外発的と言えるでしょう。しかし、好きでやっていたら「人から褒められて」外発的なやる気に転じ、一方、痩せたくてやっていたら「泳ぐことが楽しくなって」内発的なやる気に転じることもあります。

いずれにしても、水泳をやることでストレスの発散になり、健康が保たれ、友達ができ…というように、続けることでプラスになれば、やる気がそもそもどこにあったか、思い悩む必要などあるでしょうか。

【3】京先生よりアドバイス:
「やりたいこと」を実現する手段も「やりたいこと」

あなたにとって、仕事は「好きなこと」ではなかったのかもしれません。しかし、生活を支え、マネージャーとして認められ、部下を育成することで成長し、人生を豊かにできているのではないでしょうか。それでも「好き」でなければなりませんか。「やりたいこと」を仕事にしたいと思いますか。

例えば「旅行が好き」「釣りが好き」なら、ツアーコンダクターや漁師という道もあります。でも、今の仕事で稼いだお金で旅行や釣りに行けており、それが仕事をする上でのやる気につながるのなら、あなたにとっては、「やりたいことを実現するために今の仕事をやっている」と言えるでしょう。「やりたいことを(仕事として)やらなければならない」という思いにとらわれ、もやもやする必要などないのです。

そして、「やりたいこと」と言えばドキドキワクワクすることを思い浮かべますが、落ち着くことや安心することも意識してみて下さい。「やる気」は、がむしゃらに熱くなることばかりではありません。休養をとったり、体に良いものを食べたり、静かに好きな本を読んだりするなど、生きるために必要なことを淡々と行うことも、すごく大切なことです。こうしたことは、けっしてやる気がなくて怠惰な状態ではなく、人生に意欲をもって取り組んでいるとも言えるのです。

人はバランスの生き物です。ドキドキワクワクするだけでは生きてはいけず、心身が十分に休養を取れれば、また刺激を求めるようになります。生産的なことをし続ける一方で、一見非生産的なつまらないことに時間を取られたとしても、あなたにとっては生きるために必要なことをしているのです。

田中ウルヴェ 京 著書

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この連載の著者

田中ウルヴェ京

ソウルオリンピック シンクロ・デュエット銅メダリスト。日・仏・米でシンクロ代表チームのコーチを歴任し、米国セントメリーズカレッジ大学院(修士修了)、その後アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で、認知行動療法や競技引退後の心理、パフォーマンスエンハンスメントを学ぶ。帰国後2001年より、プロスポーツ選手から一般までメンタルトレーニングの指導、および企業研修、講演等を行い、パラリンピック車いすバスケットボール男子日本代表チームやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)のメンタルコーチ、また報道番組レギュラーコメンテーターも務める。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。2017年、IOCマーケティング委員に就任。夫はフランス人、一男一女の母。