周囲と合わないメンバーがいて、課の雰囲気がギクシャク…。リーダーとして 取るべき行動とは?

実際に悩みを抱えている方のご相談ごとに、京先生から具体的なアドバイスをいただくケーススタディ編。今回は、営業マネージャー3年目のSさんのお悩みを解決します。気持ちが通じないイライラから解放されるために、「合わないメンバーに対処する」方法を一緒に学んで行きましょう。

田中ウルヴェ 京氏
相談

周囲と明らかに価値観の違うメンバーがいて
なんとなく課の雰囲気がギクシャクしてきて困っています。

  • 相談者:Sさん(3X歳 営業マネージャー3年目)
新人のB君は、「プライベートの時間はきっちり確保したい」派。課のメンバーが集まる飲み会にも、「それってタダ残業ですよね?」と言って、参加しようとせず、なんとなく課の雰囲気もギクシャクしてきて困っています。自分が新人の時は、課の飲み会を断るなんてありえなかったのに…と思いストレスを感じています。

【1】京先生よりアドバイス:
言葉や行動に出ている部分はその人の「氷山の一角」。その人の表面には見えていない考え方を想像するスキルを持つ

人は同じものを見ても、全員が全く同じように感じるわけではありませんよね。ハワイに行って「海がきれいで落ち着く」「遊びまくって楽しかった!」と感想が人それぞれであるように、五感での感じ方も喚起される感情も全く違います。その中で「飲み会」をB君は「タダ残業」と思い、あなたは「親睦を深める機会」と捉えているわけで、同じものを見ても見えているものが違っているということですね。(ちなみに、「タダ残業」という言葉の意味合いも人によって違います。某研究所の新人研究員が、「タダで、色々教えてもらえるのはありがたいです!」と嬉しそうに上司との飲み会に行っていました。(笑))

さて、B君に話を戻します。まずここで私の疑問は、B君は「飲み会」が嫌なのか、「親睦を深めること」自体も嫌なのか、本当はB君ご本人に詳しく伺いたいところです。それによって解決策は変わりますが、今回の場合は、B君は「親睦を深める機会」が嫌なのではなく、「勤務時間外にそうした時間を持つこと」に違和感を感じているのだと仮定しましょう。それにも関わらず、あなたは「飲み会=親睦を深める機会なのだから有無を言わず来るべき」と考え、「新人が飲み会を断るなんてありえない」と思った。そうだとしたら、この「ありえない」は、あなたの考え方の癖から出た発言です。

「その人の考え方」というのは、背景としている文化や経験、得ている情報など、全く異なるものが作りだしています。その一方で、私達は自分の考え方の癖にはなかなか気づかない。自分の考え方に癖があるということは、当然、相手にもそれがあるということです。しかし、その考え方の癖は見えないもの。表に見えている言葉や行動は、その人の氷山の一角のようなもので、表に現れる言動に相容れないものがあっても、その奥に沈んでいる相手の考えていることを想像しようとすることは、結果的に自分の癖に気づくことにもつながります。

実際、B君の言動から、「プライベートを大切にしたいから」と既に1つの背景を想像していますよね。その上で、あなたの価値観ではプライベートと飲み会を天秤にかけて、プライベートを優先するB君に「ありえない」と思っているわけですが、実際に今、「ありえた」わけで…困りましたね。(笑)「ありえない」と思うだけでは何も解決できませんから、「ああ、確かに、ありえちゃってるから、私は今、困ってるんだわ」と思っていただいた上で、ちょっと視点を変えてみませんか?

原点に戻ってみましょう。そもそも「親睦を深めること」がリーダーとしてのあなたの目的なのであれば、「親睦を深めるには飲み会が一番!」という自分の中の「正解」以外にも、目的を達成するための方法はたくさんあるはず。「B君と“親睦を深める”ために自分は何ができるのか」という視点に立てば、思いつくことがたくさんあるはずです。

人というのは、どうしても自分の考え方の癖に気づかず、視野が狭くなってしまっていることが多いのです。そんな時は、自分の言葉や行動を振り返り視点を少し変えることができると、たくさんの代替案が見えてくるようになります。

【2】京先生よりアドバイス:
行動や考え方だけではなく、本当の目的を共有し、現実的な落とし所を見つける

さて、「B君も一緒にみんなで親睦を深める」ために、やはり「飲み会」をしたいとしましょう。どうするといいでしょうか。

例えば、勤務時間内に実施するのはどうでしょう。時間帯を変えてパワーブレックファストやパワーランチをやってみる。社内で持ち込みイベントを開催してもいいでしょう。もちろん、どの場合も「親睦を深めるため」という目的を共有することが大切です。「何をするか」を優先するのではなく「なぜそれをするのか」、この場合であれば、「親睦を深めることで仕事の効率性をあげる」という目的をしっかりと共有することが大切です。

近年は、ようやく「何のために働くのか」を意識する人が増えてきたと感じます。私達それぞれが「何のために」といった「自分ならではの目的意識」を持つことはとても大事です。20代30代の若手社員研修などに講師として伺うと、最近では、「名誉や金銭的欲求」よりも「社会や環境に貢献すること」を重視する傾向も増えました。多様な価値観は素敵なことですよね。

その意味では、「大事に思うこと」が1人ひとり違うわけですから、「親睦を深める会」の手法も変わってきています。ある企業では、「課のみんなで街のお掃除をする」という企画をしたら、飲み会にはこない社員が、手弁当で出てくるということがありました。また「出てこられない理由」を解決することで、参加できる人が増えるということもあるでしょう。例えば子育て中の人で遅い時間の飲み会は無理でも、ランチなら出られるということもあるはずです。

モチベーションや価値観、そしてライフスタイルも多様化する時代に、すべての人に合った機会を創り出すことは、均一の暗黙ルールがあると信じられていた時代に比べて難しいことかもしれません。しかし、誰かが満足すれば、誰かが不満足ということは昔も今も一緒です。ようやく今は、個々の意見が多様であることが見え始めるようになってきた、という意味でもあるでしょう。

大事なことは、リーダーの価値観に基づいた行動を押し付けるのではなく、まずは、メンバーのモチベーションの種類や課題を知ろうと興味を持つこと、そして、それぞれにあった方法を一緒に見いだすことです。実はそれは、長期的に見れば、能動的に動くメンバーが増えるということになり、リーダーにとってのメリットは多いことを感じられるはずです。

田中ウルヴェ 京 著書

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この連載の著者

田中ウルヴェ京

ソウルオリンピック シンクロ・デュエット銅メダリスト。日・仏・米でシンクロ代表チームのコーチを歴任し、米国セントメリーズカレッジ大学院(修士修了)、その後アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で、認知行動療法や競技引退後の心理、パフォーマンスエンハンスメントを学ぶ。帰国後2001年より、プロスポーツ選手から一般までメンタルトレーニングの指導、および企業研修、講演等を行い、パラリンピック車いすバスケットボール男子日本代表チームやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)のメンタルコーチ、また報道番組レギュラーコメンテーターも務める。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。2017年、IOCマーケティング委員に就任。夫はフランス人、一男一女の母。