年下リーダーのための、年上メンバーとの付き合い方

転職や中途採用が当たり前に行われ、年功序列制もなくなりつつある今、年下が上司、年上が部下ということもよくあるようになりました。しかし文化的に「年上を重んじることが美徳」とされてきた日本では、なんとなく年下リーダーが年上メンバーに遠慮しがち。年上メンバーも年下リーダーをどこか軽んじる傾向がある場合も…。お互いに「やりにくい」状態にある中で、リーダーとして年上メンバーとどのように付き合うのが望ましいのでしょうか。心の持ち方や態度などについて京先生に伺いました。

田中ウルヴェ 京氏

【1】あなたにも相手にも「考え方のクセ」があり、勘違いがある

お互いに「やりにくい」と感じている場合、お互いに“色眼鏡”で見ている可能性があります。それは私達の中にある「考え方のクセ」にほかなりません。そのクセは、あなた自身にとって「あまりに自然なもの」のため、気が付きにくいのです。まずはあなたが相手や周囲をどのように見ているのか、自分の「考え方のクセ」を知り、「こんなふうに見てしまうのだな」と意識することから始めてみましょう。

この「考え方のクセ」は人によって傾向がありますが、相手との関係や、あなたが今置かれている環境によっても大きく変化します。例えば、学生時代に「先生はこうあるべきなのに、最悪だよ」と「べき思考」で怒っていたような人も、就職したら「どうせ私なんか」と、「べき思考」とは異なる「どうせ思考」によってオドオドすることもあるのです。

「べき思考」になる理由は様々ですが、例えば経験値が高く自分に自信がある時です。「そもそも、こういうふうに考えるべきなんだよ」というような言葉を使う人は周りにいませんか?あなた自身はどうでしょうか?
自分の経験や成功体験を信頼しすぎるあまり、人によって違うであろう価値観を認めようとせず「自分の考え方が正しい」と言い切るような人は、良くも悪くも自信があり、「こうあるべき」という考え方のクセが、その人の行動の背景にある可能性があります。

このように他者に攻撃的な「べき思考」もあれば、自分自身を攻撃する場合もあります。「私はもっとこうあるべきなのに!」と自分の不甲斐なさにイラつくというような場合もあります。

一方、「どうせ思考」になるのは「経験が浅い人」「失敗が多い人」「自分に自信がない人」などと思いがちですが、「自責の念が強くなっている時」という言い方もできます。物事がうまくいかないのは自分のせいだ、自分側に問題があるのだと思っているような時です。

「べき思考」と「どうせ思考」以外にも、様々な考え方のクセがありますが、まずはこの2つを頭に入れて、「自分にはどういう考え方のクセがあるだろうか」と「自分メモ」を作ってみるといいと思います。

例えば、あなたは「どうせ私が年下だから」「部下としてこうあるべき」というような考えを持ったことはないでしょうか。それはどういう時にそう考えたのでしょうか。いつ、どんな考えを自分はしているのか、心の言葉を記録してみましょう。できればノートの見開きを使い、左右で「べき」と「どうせ」に分けて書いてみましょう。
これを2週間繰り返すと、あなたの考え方のクセが見えてきます。それが相手との関係をやりにくくしている理由の“半分”なのです。

もう半分は相手側にあります。相手もあなたと同様に考え方のクセがあり、色眼鏡であなたを見ています。要は「やりにくさ」を解消するための第一歩は、「相手もあなたも勘違いする」という事実を知ることというわけです。

【2】「考え方のクセの違い」に気づいて、心理的な差分を埋めるために

「相手もあなたも勘違いする」という事実を知ったところで、その差分をどう埋めていくか。半分は、あなたの考え方のクセが理由なのですから、あなたがコントロール可能な部分ですよね。

例えばあなたの話を「相手が黙って聞いている」という”事実”に対して、あなたが「上司の話は、もっと真剣に聞くべき」と”感じた”としましょう。もしかすると、あなたは人の話を聞く時に「真剣に聞いているかどうかは、相槌をしているかどうかだ」と思っており、相手は「静かに黙って聞くことが大事」と思っているかもしれません。

こんな些細な差分の積み重ねこそ「やりにくさ」の大きな原因なのですが、ここで大事なことは、あなたがそこに気づいて心理的に差分を埋めようと努力するのではなく、「ああ、差分があるよね」と常に「差分があることを意識する」ことです。そもそも「やりにくさ」の原因は、「差分そのもの」ではなく、「差分に気づかないことによる相手への不信感の増幅」なのですから。

相手の「考え方のクセ」に気づいていくには、相手と話をし、相手の「考え方のクセ」を知っていくことが一番です。でもそれができるのは「興味をもった人」に対してだけではないでしょうか(笑)。正直、「やりにくい」と感じている人に近づいて話をするのは、なかなか難しいかもしれません。

まずは「どうしてこの人はそんなふうに考えるのかなあ」と、興味を持つことから始めてみませんか。「上司なんだからやらなきゃ」と義務と捉えずに、「ふむふむ、この人はどういう人なんだろう」と観察するような気分をもってみることです。それこそ好奇心からくる、少しうがった目線でも構いません。すると、「べき」×「べき」だったり、「どうせ」×「べき」だったりする関係が見えてきます。

試してみていただきたいのが、自分側の「べき」と「どうせ」を変えてみることです。自分の「べき」が強い時、相手は「どうせ」になっている可能性が高くはありませんか。そこを、あえて下からアプローチしてみると、相手の「どうせ」を解除できるかもしれません。

逆に、あなたが「どうせ」となっているなら、いじけた状態から少し覇気を出して、謙虚で丁寧、真摯な態度で臨んでみてはどうでしょうか。いじけた「どうせ」では表情から自信も失われていきます。悲観の「どうせ」ではなく、謙虚の「どうせ」で、「自分はみなさんのサポートを全力でやりますので、皆さんはどのように力を発揮したいのか教えて下さい、よろしくお願いします」という声明を出し、言葉ではなく態度で信用を培って行くのです。

「べき」を払拭することも、「どうせ」を謙虚さと演出することも、要は相手と対話ができるような関係を作ることが目的。相手と対話して理解することを意識し実践することが、メンバーからの信頼を獲得すると心がけましょう。

田中ウルヴェ 京 著書

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この連載の著者

田中ウルヴェ京

ソウルオリンピック シンクロ・デュエット銅メダリスト。日・仏・米でシンクロ代表チームのコーチを歴任し、米国セントメリーズカレッジ大学院(修士修了)、その後アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で、認知行動療法や競技引退後の心理、パフォーマンスエンハンスメントを学ぶ。帰国後2001年より、プロスポーツ選手から一般までメンタルトレーニングの指導、および企業研修、講演等を行い、パラリンピック車いすバスケットボール男子日本代表チームやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)のメンタルコーチ、また報道番組レギュラーコメンテーターも務める。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。2017年、IOCマーケティング委員に就任。夫はフランス人、一男一女の母。