リーダーはチーム内をまとめるだけでなく、チームの代表として上層部や他部署など外部とのコミュニケーションを図るという重要な役割も担っています。そのため上司などから指示されたことをメンバーに受け入れてもらえず板挟みになることも少なくありません。時に上司の無理難題に理不尽な思いをすることもあるでしょう。厳しい折衝が続くとストレスも溜まり、他の仕事に支障が出てしまうこともあります。難しい局面を乗り越え、成果を出していくための心のもち方やストレス軽減法について伺いました。
見出しを読んで、「そんな正論いわれても」と思う人もいるでしょう(笑)。同時に、実際に現場を任されていて、何十年もリーダーとしての様々な経験を積み重ねてきた人であれば、「そうなんだよね、しょせん当たり前のことをどうやって信じ続けるかだよね」と思う人もいるでしょう。「当たり前のことで、頭では分かっていることを行動し続ける」って、簡単なのに大変ですよね。
上と下の板挟みという話は、ビジネスパーソンからよく伺うことであり、深刻な悩みです。スポーツの世界でも選手・監督・協会という構造の中で、監督が同様の悩みを抱えることが少なくありません。監督は「チームとして」の成果と教育としてあるべき姿の両面を目標として担いますが、協会はその上の「競技として」の普及、育成、強化といった広義な目標達成も担っています。階層は異なるとしても、いずれも同じ方向を向いて成果を出そうと努力しており、思いは同じな「はず」です。
もし、チームとして相容れない指示が出されたとしても、上司は全体の成果を見て「よかれ」と思ってのことなのだ、と、まずは、その目線で事実を見ようとしてみましょう。自分の「見えている事実は狭く細かいはずだ」と意識的にとらえてみるのです。たとえどんなに不信感があっても、まずはいったん自分の「見えている事実」に疑いを持つことが大事です。
それはなぜか。多くの場合、自分の「考え方の癖」が影響していることが多いからです。「いつもこうなんだよ」「どうせ部下のことは考えていない」「上司は部下の利益を優先すべきだ」というセルフトーク(独り言)が自分の心の中にないでしょうか。まずはそれに気づくことから始めましょう。
その上で、上と下との板挟みになった場合の行動として、最も気をつけたいのが「上にも下にも相手の悪口は言わないこと」です。三者のコミュニケーションの中でも、どちらかにどちらかの悪口をいうことは最も簡単で、かつ効率的に味方を作る方法ですが、破綻した時のリスクは絶大です。いわば「天につばを吐く」ようなもの。どちらに対しても嘘をついていることになり、それはあなた自身の心にも行動にも悪い影響を与えます。
そこで大切にしたいのが「高潔であること=インテグリティ」です。どういう意味でしょうか。諸外国では、子供達に分かりやすく伝える時に、インテグリティとは、「自分の言ったことと行動が伴っていること」と説明したりします。インテグリティを社訓にしているグローバル企業は多いですが、長期に亘って信頼関係を継続していくためには大変重要な要素です。そもそも「嘘をつかない」ということなのですが、効率性を重んじ「嘘も方便」がまかり通りかねない現代において、なかなか貫くのは難しいことでもあります。
どんな仕事や事業も「短期間だけ成果が出ればいい」というものではないことは頭では理解しているでしょう。成果を出し続けるには信頼関係が何よりも大切。リーダーこそが、視座を上げたり下げたりして、効率性よりも高潔さを意識するべき理由はそこにあります。
それでは具体的にどのような行動が望ましいのでしょうか。例えば、上司がA、部下がBと考えているとします。そうした時、あなた自身もAがよいと思っても、まずは、部下はBがいいと思っている理由を、主観と客観、両方とも含めて聞いておくことが大切です。一方Aでいくべきと言う上司については、あなた自身はBがよいと思っても、Aがなぜ必要なのかの客観的理由を理解することが大切です。
特に、上司の意見に主観と客観とが混在している場合には、客観的理由についてしっかり理解することです。たとえ「そもそも、この上司、客観的理由がまるでないじゃん」といった場合であっても、上司の主観の中から客観的理由を探すのです。
多くの場合、上司と部下とでは見えているものも違います。上司は高い視座からものを見ている「はず」ですし、部下は現場の事情を熟知している「はず」。つまり、中間管理職であるリーダーは、それぞれが見えているものを通訳し、解説し、共に同じ目標に向かっていることを確認することで信頼関係を結ぶという重要な役割を担っているのです。
あなた自身が板挟みになるということは、その両方が言っていることの真意を理解できるということ。両方が見えているものを理解できているからこそ悩むわけで、双方に共感ができるからこそ、相手の考えていることを伝えることができるのです。もし上司が言うことに違和感があっても、その違和感をチャンクダウンし、1つひとつに解釈を入れられるまで自分に落とし込み、「私はこう理解した」として「私を主語にしたストーリー」を伝えましょう。もし納得できないようであれば、上司に「ここが分からないので教えてほしい」という表現で質問してもよいでしょう。
世の中には伝え方について色々な「コミュニケーションテクニック」なるものがありますが、そのテクニックが機能する根底には、あくまで上司から、そして部下から信頼されていることが必要ですよね。その信頼を獲得するのは、双方に真摯に向き合って耳を傾け、最適解を見出そうとする姿勢にほかなりません。
なお、双方からの信頼関係が出来上がってくると、通訳・解説せずとも「じゃあ、○○さんがいうなら」ということもありますが、それにあぐらをかかないようにしたいものです。
中間管理職の立場の難しさは、以前からよくサラリーマンの悲哀として語られがちでした。でも、それは「有無を言わさず、上からの指示が絶対だった頃」の話。子どものお使いのように「部長が言うんだから絶対だ」「言われたとおりやって」と伝えなければならない組織は、そもそも思考停止の社員を増幅させるだけです。特に2000年以降は、簡単な正解がない時代であり、企業の発展においては、多様な思考からの発想が必要です。
自分達の努力や工夫で課題解決し発想していくということは、新しい「ストレス」を生み出します。それは例えるなら「成長痛」のようなもの。真摯に調整しようとすればするほど、自分のスキルの足りなさに悔しさを感じることが増えてくるでしょう。しかし、痛い思いをしながらその難しさを乗り越えるほど、リーダーとしての交渉力が鍛えられていきます。そうして身につけたスキルは上司と部下だけでなく、他部署や他の企業との折衝にも役に立つはず。組織において最も強力な武器であるレジリエンス(逆境対処能力)になるのです。
スポーツでは、いつの間にかできなかったことができるようになります。すると人間はだんだんつまらなくなるもの。より難度の高い技やシチュエーションを望むようになっていきます。そうした逆境を経験した人は逆境こそ自分の力がつくと実感できるので、自分の成長のためにあえて厳しい環境を求めるようになります。ストレスには悪いものも良いものもあると実感できた人は、悪いストレスは無くし、良いストレスをうまく利用し個人も組織も成長するという「ストレスハーディネス(ストレスにしなやかに対応できること)」が可能になります。
そもそも、心身ともに健康であれば、「どうしよう!」と思う時ほど、頭の回転が早くなり、筋肉が働き、最高のパフォーマンスがでるものです。中間管理職は、役職として初めて異なる立場の人の間に立って折衝する仕事を担う時期。「どうしよう!」となることが増えるのは必然です。個々のペースを守っていくことは当然重要ですが、今は成長の機会と考え、「大変」な折衝は、自分の人生の「大きな変化につながるんだ」という考えを、頭の隅においてみてはいかがでしょうか。
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