実際に悩みを抱えている方のご相談事に、京先生から具体的なアドバイスをいただくケースステディ編。今回は、営業マネージャー2年目のSさんのお悩みを解決します。自分の感情をうまくコントロールするコツを一緒に学んで行きましょう。
「イライラしてしまう」「自己嫌悪に陥ってしまう」といったネガティブな感情。それを自分の中に認めて言語化し、改善したいと思っている。ネガティブな感情を意識できている時点で、実は、「なりたいあなた」になる準備ができているといえます。
もともと人は、イライラしている自分や落ち込んでいる自分を認めたくない傾向があります。しかし、感情が揺れ動いていることを自分で認められない人ほど、手のつけられないものはありません。それはメーターのない暴走車のようなもの。自分がどのように感じているのか、なぜそうした行動をとってしまうのか、“よく分かっていない”状態なのですから。
そういう人は、自分の感情が揺り動くと「自分以外」のせいにする傾向があります。「上司が悪いから」「部下ができないから」と他人のせいにできるので楽なんですね。人によってはこの連載のような記事を読むことすら「怖い」「不快」という人もいます。
でも、たとえ感情がネガティブに振れることがあっても、それは、人間なら当然のこと。殴りたいと思うほどの憎悪だとしても“感情を持つだけ”なら、その人の人間性を損ねることはありません。むしろ、誰かに対する深い愛情が裏側にあり、結果的にその感情に結びついているかもしれないのです。
今回のケースも「イライラしてしまう」「自己嫌悪に陥ってしまう」という感情の裏側には、責任感の強いあなた、本当は怒りたくないと思っている自制的なあなたがいるのではありませんか?少なくとも「どうでもいい」と無責任で、怒ったら怒りっぱなしの人ではないことは明らか。安心して、イライラしたり、落ち込んだりしていいんです。
もちろん、感情の裏側に「かっこ悪い自分」「愚かな自分」がいることもあるかもしれませんよね。でも、それらを含めてこそ人間であり、そういう自分も認めた上で、「どう行動するか」は選択できるのです。
感情ではなく行動が大事というと、多くの人は「叱らないようにする」とか「自己嫌悪に陥らない」という目標を立てます。でも、部下はあなたが我慢していることをお見通しのはず。そして行動を抑制するだけでは負の感情は消えませんよね。むしろ感情を抑えることの弊害は前回ご紹介したとおりです。
しかし、感情の赴くままイライラして叱った結果、本当に「望む結果」が得られるかといえば、否でしょう。叱られた部下ががんばって成果を上げるのかどうかといえば、多分上げられない。上げたとしても短絡的に数字が上がっただけで、継続的なパフォーマンスにつながらない。それが分かっているからこそ、理想とのギャップを感じて自己嫌悪に陥っているわけですよね。それなら、ちゃんと落ち込みましょう。反省しましょう。
そもそも自身の感情を抑圧することなく、望ましい行動をとるためには、まずは本当の感情を理解すること、受け入れることが大切です。自分の感情の揺れ幅を自覚し、その上で「なぜ自分は叱ったんだろう?」と理由や原因をできるだけ細かくブレイクダウンしていきます。たとえば、叱った理由が「数字が伸びないこと」だというのなら、「なぜ数字が伸びないとイライラするのか」など、しつこく自分にインタビューするつもりで考えます。
すると、実はイライラの原因が「業績をなじる上司の言い方」だったり、「ライバルに負けている自分」だったり、更に隠れていた理由が見えてきます。そしてどんどん深掘りするうちに、認めたくなかった嫉妬や羨望などを自覚するかもしれません。また「こうあるべき」と頑なに理想にこだわるというような、自分の考え方のクセなども見えてきます。場合によっては、単に、天気や気圧、体調不良や睡眠不足による不機嫌ということもあります。
原因を因数分解するうちに、負の感情への対処法も見えてきます。例えば「怒りを抑えるために6秒待つ」などアンガーマネジメントの手法を試す、チームマネジメントの手法を見直す、部下との打ち合わせは空腹時に行なわない、相手の立場になって考えてみるなど、様々なことを試してみましょう。
残念ながらこの方法は一足飛びに解決することはありません。自分の感情に向き合い、その解決策をとったつもりでも、なかなか上手くいかなくて落ち込むこともあるはずです。でも、大丈夫。落ち込むのは、自分でちゃんと自分自身に向き合い、考え続けることで自分ならではの「理想」が見えてきたから。それに向かってチャレンジするプロセスでは、必ず「自分に必要な学び」が浮き彫りになり、その対処法を少しずつ身につけてきた自分を実感できるはずです。こういった小さな実感の積み重ねが、あなた自身の「実感に裏付けされた自信」になり、その結果で、意識も行動も変わってきます。
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