プレッシャーを味方につけて、最高のパフォーマンスを出す方法

「期待」は案外やっかいなもの。まったく期待されないのも寂しく、かといって過剰な期待をかけられるとプレッシャーと感じて緊張してしまい、本来の能力が発揮できないこともあります。それも「最も重要なタイミング」であるほど、プレッシャーは大きくのしかかりがち。しかしながら、アスリートでもビジネスパーソンでも一流といわれる人は、大きな期待をかけられて凄まじいプレッシャーにさらされているはずなのに、しっかりと成果をあげてきます。時には余裕すら感じる時も…。そんな「本番に強い人」になるためには、どうしたらよいのでしょうか。

田中ウルヴェ 京氏

【1】薬にも毒にもなる、変幻自在な「プレッシャー」を味方につける

「プレッシャーに押しつぶされそう」という時、どんなイメージをもっていますか。何か大きな塊があなたを押しつぶそうとしてるような、そんな想像をするのではないでしょうか。人は想像力の強い生き物ですから、言葉のイメージは絶大です。常に自分の上に大きな塊が乗っていることを想像し続けていれば、呼吸も浅くなり、体が固くなり、辛い、だるい…と気分やモチベーションにまで影響します。

それなら、例えばあなたの上に乗っているプレッシャーという大きな塊を「えいっ」と落とすことを想像してみてはどうでしょう。それによりかかる、乗ってみるのもいいかもしれません。すると、案外大したことのないものに感じられませんか。逆に、あなたを温かく包み込んで応援してくれるものに思えてくるかもしれません。ちょっとひいてみて、活用法を考えてみるのも良いでしょう。

こうしたイメージ化による客観法は「ストレスマネジメント」でよく行なわれる手法です。実際そうやって自分とプレッシャーの関係性を見つめ直してみると、プレッシャーというのは絶対的なものではなく、認知によって変化するものであることが分かります。つまり、ストレスと同様に捉え方によって、向上心を高めてくれる天使にも、自暴自棄や失敗に導く悪魔にもなりえるというわけです。

すぐにプレッシャーを天使に変えられる発想の転換ができる人はいいのですが、そうではなく「いやいや、天使とか悪魔とか意味分かんない。プレッシャーがあるのは事実なんだよ」と、どうしてもプレッシャーを悪く感じてしまう状況では、どうしたらいいでしょうか。
まず、プレッシャーは日常的にじわじわとかかっている場合と、何か特別な時に瞬間的にかかる場合と大きく2種類に分けて考えてみましょう。あなたが抱えているプレッシャーはどちらでしょうか。どちら「も」でしょうか。どんなものでも、まず、具体的に自分が感じているプレッシャーについてよく理解することで、それぞれのプレッシャーにあわせた上手なコントロール(抑制ではなく調整ですね)をすることが、結果的に仕事の上でのパフォーマンスにつながるだけでなく、あなた自身の幸せや自信にもつながります。

【2】プレッシャーを悪く感じている場合の、日常的なプレッシャーコントロール

何か役割を求められて、常に努力する必要がある時。そこに大きなプレッシャーがあると感じる人も多いかもしれません。その時、自分に与えられている役割がとても重要なものであると思っていたり、また、努力の量が相当必要だと想定してしまうと、自分の現状の能力との差を感じてしまい、ビビってしまったり、無力感に苛まれ、努力することすら無為に感じてやめてしまうこともあるでしょう。

あるいは、「周囲から理想像を常に求められているんだ」と、周囲からのプレッシャーに苦しんでいる場合もあるかもしれません。周囲からのプレッシャーは、自分ではない他人からの圧力なわけで、自分自身ではコントロールできないと思っている人もいますが、こういうケースでもよくよく聞いてみると、そのご本人が、「求められている理想像でなくてはならない」と自分に更なる圧力をかけていることも多いものです。

まず必要なのは、自分の「現状」を客観的に把握するための「自己客観視」です。自分のことを客観するなんて、難しいように聞こえるかもしれませんが、「もしもあなたが、自分自身の親友だったら」というイメージをしてみてください。もしも今のあなたの状況を、あなた自身ではなく親友の誰かが抱えているとして、それを聞いてあなたはどう励ましたり、癒してあげるでしょうか?想像してみて下さい。できれば本当にメールで書いてみたり、声に出してみて下さい。自分の状況についてちょっと視座を変えてみることができると、それだけで、プレッシャーという塊をあなたの肩の上から下ろすという意味を感じられるはずです。

【3】いざという時に最大の力を発揮する、特別な日のプレッシャーコントロール

例えば半年かけて準備した案件のプレゼンテーションなど、まさに天王山という時、「成果を出したい」という思いがプレッシャーとなって邪魔になることがままあります。緊張して頭が真っ白になってしまったり、眠れなくて次の日頭がぼんやりしてしまったり…。成果を出さねばと思うほど、それが作り出すプレッシャーが大きくなり、ストレスとなって心身に大きな影響を与える場合もあるでしょう。

こういった「成果を出したい」というプレッシャーを感じるということは、あなたが頑張り屋さんだったり、結果にこだわる人だったりと、良い意味で一生懸命である可能性もありますよね。「成果を出したい気持ち」は消す必要はありませんので、今一度しっかり自問してほしいことは、「本当に成果を出したいか」です。(「おまえは、本当に成果を出したいのか!?」と怒鳴られるような根性の話ではありません。笑)
こういったケースはアスリートとのメンタルトレーニングでもよくありますが、本当に成果を出したい、大事な本番で自分の力を最大限に発揮したいのであれば、「成果を出したい」という「欲」があることを認め、あえて、その「欲」から「自分の意識を離す」ことです。メンタルトレーニングでは、「フォーカスの場所を変える」という表現をすることもあります。「成功欲」にフォーカスするのではなく、成功欲を基盤として、そのための「行動にフォーカスする」ということです。

そもそも、我々は「気持ち」で成功するのではありません。成功したいという大きな欲があることは大事なことですが、それは前提条件にすぎません。大事なのは、その気持ちを「どういう行動につなげるか」です。
結果を出す為に必要な行動を改めて整理し、入念にリハーサルする。準備をし続けることです。よくメンタルトレーニングというと、なんだかメンタルを強くすればなんでもうまくいくと思う人もいるようですが、そもそもメンタルトレーニングの目的は、いかなるハプニングをも想定し、「あなたならではの効果的な思考」によって最適な行動をどんな時もおこなうこと、です。

実際の例としては、「プレゼンテーションで勝って成果を出したい」なら、その欲を基盤として、「その気持ちをどういう行動につなげるか」考えてみましょう。「お腹から大きな声をしっかり出す」「人の表情がどんな表情であろうと言うべきことをシンプルに伝える」など、自分が大事だと思う行動を具体的にしておきます。同時に、「頑張ろう」「無心で」といった具体的な行動ではない「なんとなく雰囲気だけの曖昧な言葉」には気をつけましょう。曖昧な表現は、具体的な行動を想像しにくいので余計に不安や緊張につながる場合もあります。

スポーツでもビジネスでも、どんなに誰かに勝とうと思っても、相手が自分よりも良かったり強ければ負けます。結果は得られません。しかし、結果を出すためのベストな行動は、少なくとも自分がコントロールできることです。結果を得ることは当然大事ですが、その経緯で「やるべき行動に集中すること」を学べることは、必ず次に生かすことができます。

これはまた別の機会に詳しく紹介しますが、心理学の研究の中では、緊張や不安といったプレッシャーの中での実力発揮に、「呼吸」や「身体ストレッチ」が効果的であるともいわれています。身体からの対処法も取り入れてみてはいかがでしょうか。

田中ウルヴェ 京 著書

『人生最強の自分に出会う 7日間ノート 超一流のメンタルをつくる感情整理プログラム』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ストレスの多いビジネスシーンにおいて、いざという時にも動じない最強のメンタルを手に入れるためには「自身の心を知ること」が第一歩。そうした心理学研究に基づくコーピング理論のもと、考え方のクセやストレスのタイプを知り、感情を整理するための方法を、7日間のレクチャー方式で紹介している。実際に書き込める記入シートが多数用意されており、手にとったその日から自分の手でメンタルトレーニングを実践することができる。

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この連載の著者

田中ウルヴェ京

ソウルオリンピック シンクロ・デュエット銅メダリスト。日・仏・米でシンクロ代表チームのコーチを歴任し、米国セントメリーズカレッジ大学院(修士修了)、その後アーゴジー心理専門大学院、サンディエゴ大学院で、認知行動療法や競技引退後の心理、パフォーマンスエンハンスメントを学ぶ。帰国後2001年より、プロスポーツ選手から一般までメンタルトレーニングの指導、および企業研修、講演等を行い、パラリンピック車いすバスケットボール男子日本代表チームやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)のメンタルコーチ、また報道番組レギュラーコメンテーターも務める。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。2017年、IOCマーケティング委員に就任。夫はフランス人、一男一女の母。