鹿毛 康司氏×常見陽平氏 対談ヒットメーカー・鹿毛 康司氏に聞く、チャンスを引き寄せる働き方

常見 陽平氏がインタビュアーとして様々な世界で活躍する人物の「営業観」を浮き彫りにする連載「常見陽平の営業バンザイ!」。
第2回は、10年以上ぶりに過去最高益と話題の企業で、「消臭力」「ムシューダ」など、数々のヒットCMの仕掛け人である、エステー株式会社執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛 康司氏。
ヒット作を連発する裏側には、地道な「営業」があった!? 「私は営業配属だから下積みで苦しい」としょぼくれている若者必読! 鹿毛流価値を生み出す方程式とは。

鹿毛 康司氏と常見 陽平氏

【1】「営業」は誤解の多い言葉である

常見 陽平氏鹿毛さんに今回の対談をお願いした際、「そもそも、営業ってなんだろう?」というメールをいただきました。
ぼく自身も考えたのですが、「営業」という言葉は単に「セールス」と訳すのも違いますし、「マーケティング」でもない。独特の広がりがある言葉ですよね。

鹿毛 康司氏常見さんのように仕事が分かっている人の語る「営業」と、若者が想像する「営業」はかけ離れています。
そこをおさえずにこの企画で「営業が素晴らしい」と言ってしまうのは……常見さん、罪深いですよ(笑)。

常見 陽平氏ええっ、どういうことでしょう?

鹿毛 康司氏若い人達は「営業は下積み」だと思っています。ノルマに追われ、いらないものでも押し売りして、業績につなげることが「営業」だというイメージもあるかもしれません。
ですが、ビジネスパーソンは営業をずっとやり続けるものです。一番の営業パーソンは社長ですし、総理大臣だって外遊し、営業しているわけです。ぼくだって「営業」という肩書きはないものの、いろんな人に会って、頭を下げています。

それなのに、自分の仕事が「営業」だから何かを売りつけられるのではないかと思われて、うまくいかないと思い込んでいる若い人も多いと思います。
それは営業だからではなく、仕事のやり方が間違っているんです。企画をやっても、芸能人をやってもうまくいかないと思います。

対談風景

常見 陽平氏そうですね……。確かに、営業の話をすると「営業とはコンサルだ、企画だ、マネージャーだ」と他の職種に例えて話をしますよね。
しかも、営業をやっている人達は「しょせん営業だ」って自分を卑下することもあります。

ぼくが営業の大切さを知ったのは、企画部に異動してからです。それまでは売れない営業パーソンで、ぼく自身も営業職にコンプレックスがあった。
でも、企画に異動してはじめて、根回しの重要性に気が付き、これからは社内に営業しなければと思ったわけです。

鹿毛 康司氏むしろ、営業で難しいのは社内の方なんですよね。たとえ、社外で出禁になっても、即刻クビにはされません。
ですが、社内で人とのネットワークをつくれない人間は社内から外され、下手すればリストラされる。
「ぼくは人としゃべるのが苦手だから営業は苦手」と言う人がいますが、社内の方がより高度な営業を求められるものなんです。だから、常見さんにはこの誤解の多い「営業」という言葉を整理して、魅力あるものにしてほしいです。

常見 陽平氏今後の連載の課題ですね……早い段階で鹿毛さんにお伺いできてよかったです。

【2】営業にも同じことが言えるはず!企業が存在価値を生み出すための方程式

常見 陽平氏鹿毛さんの思う「いい営業」について教えてください。

鹿毛 康司氏最近、ほぼ日※(ほぼ日刊イトイ新聞発行)が上場しましたよね。あのような会社を見ていて、気が付いたことがあります。多くの人は

売上-コスト=利益

だと思っています。ですが、人に価値のあるものをつくって利益が出るのが、本来の企業の姿だと思うのです。そこで、

喜んでもらう活動-おもてなし=存在価値

という式を考えました。売上は、「喜んでもらう活動」に置き換えられます。
原価が安いのに高いお土産が観光地で売れるのは、多くの人が喜んで買うからです。BtoBもBtoCも顧客を喜ばせることで、お金を得るのではないでしょうか。

ここで重要なのは「おもてなし」の部分です。相手を喜ばせるのは重要なのですが、実力以上のおもてなしをしてはいけません。
いい営業というのは、数字だけを追いかけているのではなく、その感覚をどこかで分かっている人だと思うのです。我々がどこまでできて、どこまでできないのか。そのことを取引先に示して交渉することができる。

鹿毛 康司氏

常見 陽平氏やらなくていい特別対応をして疲弊してしまう営業パーソンっていますよね。
特に新人のころは努力の方向を間違えがちで、お客さんが望んでいないことを頑張ってしまう。
「コミュ力」が大事だとよく言われますが、それはべらべらとおしゃべりできる力ではありません。相手が期待していることを分かる力だと思うのです。

鹿毛 康司氏営業は「自分を売り込むこと」ってよく言われますけど、それは間違っていると思います。合コンじゃないんだから。

常見 陽平氏お前自身のアピールはいらないと(笑)。

鹿毛 康司氏だから、仲良くなろうとしてお酒を一生懸命飲もうとしても仕方ない。
期待されているのは仲の良さではなく、会社の中で話をうまく通してくれることです。

常見 陽平氏営業の世界では、誤解されて伝わっている言葉が沢山ありますよね。
例えば、「お客様は神様だ」と言う歌手・三波春夫の言葉は曲解されて伝わっています。

もともとは「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な藝(げい)をお見せすることはできない」という意味なんですね。
お客様にはなにがなんでも服従しろという意味ではありません。

対談風景

鹿毛 康司氏若い人に言いたいのは、お客様は選べるものだということ。選べないのは銀行や市役所の窓口業務だけです。
お客様を選べると思っていれば、営業は怖くないと思います。いいお客様を選べばいいわけですから。

常見 陽平氏鹿毛さんの思う「いいお客様」はどのような方ですか。

鹿毛 康司氏厳しい会社(お客様)は、いい会社(お客様)だと思います。
法外なことを要求するわけではないですが、求めているレベルが高いから厳しい。それに対応できるのは、価格の安さではなく、要求される厳しさのレベルに共鳴できるかです。
そういう厳しく求めてくれる会社に対しては、つらくてもやるべきだと思います。

一方で、「ただコストだけ安ければいい」と思っている会社があるのも事実です。その時は選んでいい。
新人だと選べないかもしれませんが、上司と相談すればいいと思います。担当をかえてもらうんです。つまり、お客様は選べます。

常見 陽平氏「○○社の歴代担当者はみんな出世する」と言われている登竜門的な会社ってありますよね。
それって、大手かどうかは関係なく、要求水準が厳しい会社であるのは間違いないでしょう。鹿毛さんは相手にとって「厳しい取引先」ですか?

鹿毛 康司氏ぼくは、値下げ交渉は絶対しません。それは人の価値を搾取することになるから。だけど、レベルは上げてもらいたい。
だから、ぼくは何案も出してもらったり、作曲家の人と自分の曲をコンペしたりします。
それは人によっては「厳しい」のかもしれないけれど、いいものをつくるために戦っているのです。

【3】打席に立とう! 光が当たらない人はいない

鹿毛 康司氏ちなみに、エステーは広告費を大量に投下しているほうではありません。予算の低いところには売れっ子クリエイターは来ません。
だから、「消臭力」のCMを一緒につくった篠原誠さんが担当になったのは奇跡なんです。

常見 陽平氏

常見 陽平氏篠原さんはau「三太郎」のCMをつくり2015年クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、今や超売れっ子ですよね。
どうやって口説いたのですか。

鹿毛 康司氏篠原誠さんのつくった「万年筆」のCMを見かけて、「この人しかいない!」 と思いました。放映をたくさん見かけることはないCMでしたが、やたら記憶に残ったのです。
そこで、電通さんに相談したら担当の部署が違うと言う。だから、2年がかりで役員の方にまでお願いして、そうこうしてとうとう担当してもらうことになったのです。

常見 陽平氏まさに「営業」ですね。2年がかりで「受注」したと。
鹿毛さんの周りにこの人はすごい!という営業をする人はいますか。

鹿毛 康司氏

鹿毛 康司氏ぼくがいま一緒に仕事をしている中で、すごいなと思う女性がいます。
彼女は大学生だったころに、「エステーのCMが好き」とぼくにコンタクトを取ってきました。ぼくがTwitterで花見をしていると言うと、そこに現れたんです。1時間くらい花見の会場をぐるぐる回って、勇気を振り絞ってぼくのところにきた。まさしく営業です。
それから3年生になった時に、大学の講演会でぼくを呼んだ。それも営業です。

気が付いたら、彼女は電通に入社してクリエイティブ部門に入っていました。そこでぼくは、彼女を指名して篠原誠さんの下についてもらいました。
チームに入っても、すぐに企画が採用されるわけではありません。それでも彼女は何百本も一生懸命企画をつくってもってきました。腐らずにやり続けたんです。

今度、100%彼女がつくった企画のCMを撮影します。「この人を打席に立たせたい」と思わせてくれる状況を彼女がつくったんだと思います。
新人はすぐには役に立たない。それでも、新人らしい実力があります。育ててもらう新人になるためには「若いのでお願いします」だけじゃダメで、自分から育ちにいかないといけません。

常見 陽平氏そういう下積みこそが社会人の基礎力をつけますよね。彼女は何度も素振りをしていたからこそ、打席に立つチャンスをもらった。

鹿毛 康司氏世間に実力があって光が当たらない人はいないと思うのです。力があれば自然と光は当たるもんなんです。ただ、光が当たっていることに気が付いていない。

先ほどの「厳しい会社」でも、「キビシイ」と思いながら取引先を出た時、その会社では「あいつよくやってるよね」としゃべっていることがある。実は光が当たっていると思うんです。
その時に、この人が喰らいつけるかどうか。そのうち「飲みにいこうか」「うちの社長に会ってみない?」ということが起こります。
でも「キビシイ」で終わって諦めてしまうと、光が当たらないままになってしまいます。

若い人に言いたいのは、厳しい仕事こそ、大事にしてほしい。
大人になって楽しむためには、単に楽しいだけではなく、苦しさが必要なんです。苦しい中から、楽しさが生まれる。
頑張って飲むビールは美味しいですよ。

常見 陽平氏

対談を受けて

鹿毛康司さんと初めてお会いしたのは、2010年の秋だった。CMの世界では注目されていたが、まだ東日本大震災直後の「消臭力」のCMが話題となる前だった。
初めてお会いした時から、圧倒的な面白さと、仕事に対する真剣さを感じる方だった。
初めてお会いした時、鹿毛さんはすでに50代で、私はまだ30代だった。
その後、お会いするたびに、仕事に対する厳しさと愛、圧倒的な成長意欲を感じた。
何よりそれは、彼が仕事と、それ以上にお客様を愛しているからだろう。実に贅沢な時間だった。
今回の鹿毛さんの声は、日本の営業の「空気を変える」だろう。「消臭力」を始め、彼の手がけたCMが日本をそうしていったように。

鹿毛 康司 著書

『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)には、鹿毛康司流仕事術が凝縮されている。クスりと笑えたり、ホッとするエステーのCMの裏には、地道な努力の積み重ねが。ユニークなのに、実は奇をてらったものではないのだ。すべては、お客様に愛されるための努力の積み重ねだ。宣伝部志望なのに営業配属となった新人時代、雪印事件と向き合った経験、CMでの失敗体験なども赤裸々に紹介されている。実はこれこそが営業の教科書なんじゃないかと思う。ぜひ、読んで頂きたい。

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文:山本 ぽてと  写真:山本 中

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この連載の著者

常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師。いしかわUIターン応援団長。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。