坂口 孝則氏×常見陽平氏 対談サプライチェーンコンサルタント・坂口 孝則氏に聞く「潮目」を読む力

常見 陽平氏がインタビュアーとして様々な世界で活躍する人物の「営業観」を浮き彫りにする連載「常見陽平の営業バンザイ!」。
第6回は、サプライチェーンコンサルタントの坂口 孝則氏。
著書の『未来の稼ぎ方』(幻冬舎新書)では、2038年までの変化と、それに伴うビジネスチャンスを予測した。
営業はこれからコテコテ路線に戻る? 坂口氏が見る、営業の未来とは!?

坂口 孝則氏と常見 陽平氏

【1】営業先へは「おみやげ」を渡せ

常見 陽平氏今回は調達・購買のプロフェッショナルである坂口孝則さんにお話を聞きます。
社会の変化が激しくて、今までの経営学の教科書的な理論が通じなくなっているという議論があります。 今のAmazonの戦略をポーター理論で果たして深く読み解けるのか……。

そんな中で、『未来の稼ぎ方』では、これからの未来に起こる変化と、その持つ意味を読み解いています。
オンラインサロンビジネス、終活、代替エネルギーやドローンなど、今、直視すべきキーワードを網羅しつつ、今後起こる変化と合わせ、意味付けしています。

坂口 孝則氏ありがとうございます。
本では検証性を重視しました。最先端の人しかアクセスできないような情報で一冊書く本も面白いのですが、誰にでも手に入るデータのみで書きました。
本を読んで、「そんなの嘘だろう!」と思ったら、是非、巻末のデータを使って自分で検証してほしいなって。

常見 陽平氏こういう本って、不安を煽るようなものになりやすいですよね。「日本型雇用の崩壊だ!」とさんざん叫ばれてきました。何年かに1度、その手の言説が流行ってきましたし。
その点『未来の稼ぎ方』は基本的にはポジティブな論調ですよね。

対談風景

坂口 孝則氏この本を書く際に、明るい本にすることは意識しました。
執筆の前に、未来像について書かれた新聞記事を調べてみたら、60年代に小説家の高橋和巳が面白いことを書いていました。当時も未来を予想することが流行していました。彼は、このような未来予想が流行る背景に、原水爆の恐怖があると指摘します。その記事の書かれた前に、第五福竜丸のような事件があり原水爆の危機がリアルに感じられていました。そんな時に未来予想をすることで、「未来はどうしょうもない」と諦め、逆説的ながら安心しようとしているのだと。

そして、50年後の今に目を向けると、再び未来予想が流行っています。
現在あるのは人口減少とAIへの恐怖でしょう。そして60年代と同じように、「未来はどうしょうもない」と安心したがる需要に応え、悲観的な未来予想の本が増えています。
だからこそ、この本では「稼ぐ」をテーマにして明るい方向に転換したいという思いがありました。

常見 陽平氏素晴らしいですね。
僕が感じたのは、『未来の稼ぎ方』は、優秀な営業パーソンが持ってくる「おみやげ」のようなものだということです。

坂口 孝則氏ええっ、どういうことですか。

対談風景

常見 陽平氏リクルートの優秀な営業パーソンは、常に営業先におみやげを持って行っていました。菓子折りを持って行くわけではなく、「最近、こんなお役立ち情報がありまして」と話のおみやげを持って行くんです。
そうすることで、勉強熱心な営業パーソンとしてセルフブランディングできますし、更にその状況を見ながら取引先の関心がどこにあるのかを探ることができる。
この本には、そういうおみやげ話がいっぱい詰まっています。営業ツールとしてかなり役立つ本だと思いました。

坂口 孝則氏「おみやげ」ですか。そう使っていただけるのは、嬉しいですね。

【2】凡人が食えるビジネスとは?

常見 陽平氏

常見 陽平氏是非坂口さんとお話したいのは、潮目を見極める力です。ここでは「潮目力」と名付けましょうか。

僕の尊敬する大手旅行代理店の方も、潮目を読んで提案する大切さについてよく話していました。旅行代理店の基本業務はチケット手配ですが、潮目を読むことでたくさん企画が生まれます。

彼はM&Aブームがあった時に、「シリコンバレーの最先端を見ましょう」などとツアーを提案し、様々な会社の役員達に営業をかけたそうです。そうやって潮目をつかむと、ビジネスチャンスがあるし、仕事も面白い。

坂口 孝則氏潮目を考える上でいつも意識する話は、アメリカで起こったゴールドラッシュです。
結局ゴールドラッシュで儲けたのは、土地を持っていた人でも、金を掘りにきた人でもありません。金を掘りに来た人を電車で運んだ人と、ツルハシを売った人と、ジーンズを販売した会社――つまりリーバイス――です。

潮目を最初に察知するのは重要ですが、トップランナーで食うには運や才能が必要です。凡人が食っていくことを考えると、潮目が起きた時のサポートビジネスが儲かるのかもしれません。実際にシリコンバレーでは、データサイエンティストを育成するビジネスが成功しています。

常見 陽平氏トップランナーほど早くもなくてもいいけれど、世の中よりは一歩先をいく必要がありますよね。

坂口 孝則氏前回の対談相手だったはあちゅうさんの例で考えてみると、彼女がトップランナーです。今からまったく同じようにサロンを開き、成功するのは難しいですよね。サポートビジネスとして、はあちゅうさんになりたい女性を応援する塾などが、求められているのかもしれません。

常見 陽平氏行動を管理するアプリを開発するなど、様々なサポートビジネスのチャンスがありますよね。

坂口 孝則氏

坂口 孝則氏もうひとつヒントがあると思うのは、芸術分野です。村上隆さんは、作品を作る時に作成費用と同時に、この作品が芸術史上どんな文脈があるのか、その翻訳にお金をかけていると聞きました。

ここにこれからの示唆があるような気がします。まだ抽象的に考えている段階なのですが、これからは、コンテンツそのものよりも、解説をするような人が求められていくのではないか。ビジネスパーソンに当てはめるとそれがどう変化するのか考えているところです。

常見 陽平氏それは「意味づけ力」といえるのかもしれません。
最近、営業が効率化していて、「この順番通りにやれば成績があがる」と仕組みが決まっています。ちゃんと儲かるのですが、物事の関連性を意味づける力は衰えていくのではないかと感じました。

【3】「潮目力」は無駄な時間から生まれる?

常見 陽平氏潮目力を磨くための方法はあると思いますか?

坂口 孝則氏僕の師匠は、暇な時間があったら、100円ショップと東急ハンズに行けと言っていました。
東急ハンズの上から下までを回った後に、100円ショップで同じようなグッズを探す。共通しているものが売れているものだと。そこから世の中のトレンドも見えてきます。

常見 陽平氏

常見 陽平氏そのような、一見すると無駄な時間はすごく大事ですよ。
働き方改革で、長時間労働の是正が進められていますが、「意味のある無駄」も失われているとも感じています。私がリクルートにいた時の営業パーソンは、5件営業にいくのであれば、そのうち2件はすぐには商談につながらない場所に行っていました。
未来への営業をするのです。

坂口 孝則氏それはいいですね。
行く以上は何か情報を提供しなきゃと思うでしょうし、一生懸命勉強する習慣がつきます。

常見 陽平氏様々な情報に触れることは、潮目を見る力にもつながります。
採用担当をやっていた頃も、毎年シーズンが始まるたびに「受けている学生の雰囲気が変わったな」「福利厚生のことを質問されることが増えたな」とその年度の変化を感じました。そこから今の就職活動は売り手市場なのかどうか、自分の会社が社会からどう見られているのか、様々な潮目を読み取ることができます。

坂口 孝則氏

坂口 孝則氏その時に、現場主義でもなく、データ主義でもない中間の視点で考えるのが一番いいと思っています。

この前、北京の開発区である雄安新区を見に行きました。本によれば、市民の住民票がブロックチェーンで管理され、自動配送車が走り、無人コンビニがあるハイテクな場所だといいます。

でも実際に足を運ぶと、住民票は紙で管理され、自動配送車の隣にはリモコンを持って操作する人がいました。「無人」コンビニのはずなのに入店補助からレジの誘導までかなりの店員がいました。

常見 陽平氏実際に現場に行かないと分からない情報ですね。

坂口 孝則氏ですがこの様子を見て、「現場で見ると、中国の発展は見せかけだ」というのは簡単です。しかしそのような実験地区をつくるエネルギーが中国にあることは事実で、いずれテクノロジーが整えばすごい都市になるでしょう。データと経験の中間の視点を自覚的に持つことで、潮目をきちんと見ることができるのでしょう。

【4】これから求められるのは「コテコテな営業力」

常見 陽平氏『未来の稼ぎ方』の中では、様々なトピックに触れられていましたが、特に営業パーソンが押さえておくべき変化はなんだと思いますか。

坂口 孝則氏

坂口 孝則氏まずは小売業の変化ですね。松下幸之助の時代には、メーカーが強すぎて、お客さんのニーズを吸い上げられないことが課題でした。
その後、ヤマダ電機のように自分達でニーズを吸い上げ、商品開発をする会社が出てきます。その傾向が進むと同時に、これからの量販店はセブングループと、イオングループ、ドン・キホーテ(+ファミリーマート)の3強時代がやってきます。

これからのメーカーはお客さんの声をどのように聞いていくのかが課題になっていくと思います。そして小売業はその情報をガードしたい。そんな攻防になるでしょうね。

もう1つは、「売らない」営業についてです。
現場の方からよく「営業の人が売ってくれない」という話を聞きます。需要に供給が追いついておらず、生産だけでギリギリの製造業が多い印象です。
でも中長期的には、その人達も重要な取引先になりますので、ちゃんとした営業パーソンはうまくかわして、売らない技術があります。

常見 陽平氏面白いですね。いまや営業パーソンもお客を選ぶということですね。
そしていい営業パーソンは売らない時にも、相手に納得感を得てもらわないといけない。これからは誰にでも売るわけではなく、誰に売って誰に売らないのかを見極める力も必要になってくると。

坂口 孝則氏売らない、あるいは売りたいけれど売れない。だけれども、相手のことは誠心誠意大切にする。
そういう関係づくりが求められていると思います。

常見 陽平氏

常見 陽平氏そこでは単なる値段交渉などではなく、相手の心をつかむような、昔ながらのコテコテの営業力が必要になってきますね。

坂口 孝則氏そうなんです。これからは人間関係ベタベタで営業をやった方がいいと感じています。それは、理屈と現場の両方を見ないと分からない潮目です。

3.11があった時に、調達部門で何が起こったのか、アンケートを取ると面白いことが分かりました。
経営学のセオリーでは「マルチソース」が推奨されていて、A社だけから買うよりも、A社とB社の両方から材料を得た方がリスク回避のためによいとされていますよね。

しかし実際に震災で大変な状況になり、A社からの供給が止まって、B社に駆け込んでも「うちは専属の取引先の方を優先します」と言われてしまった。一方で、A社だけから買っていた会社は、必死になってラインを復旧してもらえた。

このように現場では理屈と違ったことが起きるんです。
理屈と現場の両方見ることが重要ですよね。

常見 陽平氏私も常々、本を売るためには手売りや握手がいかに有効かを感じています。変化の激しい時代だからこそ、コテコテの営業力が求められるようになった。今日は興味深いお話をありがとうございました。

常見 陽平氏

まとめ

贅沢な時間だった。なんせ、坂口孝則さんの話を砂かぶりの場所で聞けるのだから。膨大な情報量に脱帽しただけでなく、その持つ意味を見出していく慧眼にいちいち脱帽した。
情報はただあればいいというわけではない。その持つ意味と、これがどうビジネスにつながるのかという視点こそ大事だ。是非、皆さんも普段から情報を集め、潮目を読み、ビジネスにつなげてほしい。

坂口 孝則 著書

『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』 (幻冬舎新書)
2038年 世界じゅうで教祖ビジネスが大流行する!?――広範なデータに基づき、2019年~2038年までのコンビニ、エネルギー、インフラ、宇宙、アフリカなど注目の20業界の未来を大予想。これから儲かる業界はどこ? 今後稼ぐにはどうしたらいい? 具体的に未来を予想した一冊。

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文:山本 ぽてと  写真:山本 中

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この記事の情報は公開時点のものです。

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この連載の著者

常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師。いしかわUIターン応援団長。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。