はあちゅう氏×常見陽平氏 対談作家・はあちゅう氏に聞く、「自分」を売り込む営業術

常見 陽平氏がインタビュアーとして様々な世界で活躍する人物の「営業観」を浮き彫りにする連載「常見陽平の営業バンザイ!」。
第5回は、作家・ブロガーのはあちゅう氏。慶応大学在学中に企業からスポンサーを募り卒業旅行をし、電通、トレンダーズを経て、現在は執筆、オンラインサロンの運営を行うなど精力的に活動するはあちゅう氏の根本には、地道な営業力があった!? いま話題のインフルエンサーに話を聞いた。

はあちゅう氏と常見 陽平氏

【1】電通時代の印象にのこる営業パーソン

常見 陽平氏はあちゅうさんは、自分売り込むという意味で、すごい営業パーソンだとぼくは思っているんです。

はあちゅう氏嬉しいです。

常見 陽平氏でも、はあちゅうさんって営業職の経験はないですよね。

はあちゅう氏ないですね。インターネットの部署とクリエイティブ職、美容メディアの編集長、新規事業開発、それからフリーランスになったので、「営業」と名前がついた仕事はないです。

対談風景

常見 陽平氏まずは電通時代のお話をお伺いしたいのですが、電通って世間一般では営業の会社っていうイメージがあると思うのですよ。この人すごいなぁと思った営業マンの方はいますか。

はあちゅう氏電通にはいろんなタイプの人がいました。仕事じゃないところでクライアントの心をつかんでくる人。飲み会で勇姿をみせて仕事につなげた人もいます。すごく頭がよくてクリエイティブの言うことをクライアントに角なく伝えてくれる人もいました。

あとはクライアント想いの営業さんは多かったですね。例えばカメラメーカー担当の営業だったら、そこの製品を買う。自動車メーカー担当の中には、車を買い替える人もいます。クライアントの商品を自分がいちばんに使ってみるという精神が電通全体にあったので、そこは筋が通っている感じがして好きでした。
ただ、どうしてもクライアントの立場が強くなるので、電通の長時間労働問題につながっているのかもしれません……。

常見 陽平氏批判されている「極度なクライアント至上主義」ですね。ちなみに、素敵な営業パーソンを見ていて、はあちゅうさん自身が学んだことはありますか?

対談風景

はあちゅう氏私個人の体験としては、ユーモアを交えたメールを送ってくれる人が印象的でした。例えば、クライアントさんが魚関係の本を出した時があったんです。その時ある営業さんが、メールの語尾を魚介類にしていて(笑)。

常見 陽平氏はははっ、魚介類?

はあちゅう氏「イカします」とか「~しタイ」とか、魚介類を入れてくるんです。そこからチームの中で語尾を魚介類にすることが流行って、チームの人間関係がよくなりました。私はまだ新人だったので、こういう先輩と大喜利みたいにメールできるのは楽しいなと思っていましたね。

【2】普段の積み重ねが大事 はあちゅう式営業術とは?

常見 陽平氏ちなみに、はあちゅうさんなりの営業術はありますか。

はあちゅう氏大前提として「相手の時間を無駄にしない」こと。いきなり「会って話を聞いて下さい」と言うのではなく、まずはメールで企画書を送って「興味を持ってもらえるようなら会っていただけませんか?」と段階を踏む。
資料もボリュームが多ければ多いほどいいと勘違いしている人がいますが、読みやすいように短めにまとめる。お互いの時間を無駄にしないように心がけています。

はあちゅう氏

遅刻してきた人に「御社のすべてを変えます!」とプレゼンされても、素直に聞けない。この人に任せたいと思ってもらえないといけません。

営業が分かっていない人は、普段の積み重ねがないのに、大きな信頼を得ようとするんです。でも小さな信頼ポイントをいくつ集められるのかは大事です。メールの書き方がちゃんとしている、時間を守る、即レスをくれる。そうやって信頼を刻んでいくから、高い信頼感が得られるのだと思います。

常見 陽平氏はあちゅうさんが仕事先から信頼を得るため、ほかに気をつけていることはありますか。

はあちゅう氏仕事でいい結果を返すことが一番です。例えば、私がネット記事の執筆を依頼されたとします。記事を書くまでが仕事だと思っている人もいるかもしれませんが、私はユーザに届けるまでが仕事だと考えているんです。書いて提出するだけではなく、Twitterで宣伝をし、評判を見たらそれをリツイートして、掲載先にPVが集まるようにする。

自分が仕事を依頼する担当者だったらやってほしいことは実行しています。それはどんな媒体でも一緒です。締め切りはほぼ落としたことはないですし、だいたい先に提出します。媒体の原稿チェックも早く返します。

そういうふうに地道に足元の仕事をしていないと、炎上した時に「人間的にちゃんとしていない人」だと思われて、発言の説得性がなくなるんです。ある程度の品質保証のような意味で、仕事をしっかりする人という印象はつけたいと思っています。

常見 陽平氏

常見 陽平氏いやぁ、素晴らしい。そういった地道なことをしているから、はあちゅうさんは炎上を恐れないのですね。

はあちゅう氏いや、大嫌いなんです。

常見 陽平氏すいません、それは大きな誤解でした。でも、それでもはあちゅうさんには、伝えたいなにかがある。

はあちゅう氏言いたいことを言えない世の中はけっこうつらい。言いたいことを言って、その賛同者をじわじわと増やしていくと、自分の発言によって少しでも社会を変えられる。そうなったらすごく嬉しいので、言いたいことはひっこめておかないようにしています。

ただネットに愛されているとは思いますけどね……。他の人が言ったら議論にならないことも、私が言うとニュースになってしまう

常見 陽平氏それはそれで大事な力ですよね。

はあちゅう氏すごいねとか羨ましいと言ってくれる人もいますが、私自身はそんなに楽しんでいないんです。だからオンラインサロンのような、対等にディスカッションができる場所を大事にしています。

【3】仕事かつプライベートの一石二鳥の時間を増やす

対談風景

常見 陽平氏はあちゅうさんは、『「自分」を仕事にする生き方』(幻冬舎)という本を書いていますが、「自分を仕事にする」ってけっこう大変じゃないですか? つらくないです?

はあちゅう氏つらくないです。楽しいです。無駄なところがないんです。会社員時代のころは、仕事のオン・オフがはっきりしていて、仕事の比重が高くなると自分のプライベートが押しつぶされて会社のために犠牲になっている気になっていました。

でも自分の名前で仕事をすると、ずっと仕事をしているようで、ずっと遊んでいます。時間があればTwitterを見て、本を読んで、文章を書く。地方でイベントをすると、私がやっているオンラインサロン「はあちゅうサロン」のメンバーが来て、一緒に観光をしたり、飲み会に行ったりする。仕事の延長であり、遊びの延長のような感じで、夏休みのような状態が続いているんです。

たまに、「人生切り売りしてつらくないですか」と言われますけど、自分の中で出すことと出さないことは棲み分けているので、なにも苦労はないです。

常見 陽平氏ちなみに、はあちゅうさんが仕事を受ける/受けないの基準はどこにあるのですか。

はあちゅう氏3つあります。「スケジュールが空いていること」「わくわくすること」「インプットとアウトプットが同時にできること」。この取材も、記事を読む人からすると、はあちゅうのアウトプットのように見えるのですが、喋っている時間に今まで考えもしなかったことが口から出たり、常見さんとの化学反応が生まれたりするかもしれない。

私は、一石二鳥の時間を人生に増やしていきたいんです。だから仕事かつプライベートみたいな時間が好き。人生をきゅっと濃く過ごせている気がします。

常見 陽平氏営業パーソンに置き換えて考えると、一石二鳥の仕事はすごく大事ですよね。もっともっとするべきです。例えば、自分がスポーツが好きならスポーツ業界の仕事を取りに行く。そういったミーハーな動機でやると一石二鳥になりますよね。ぼくもこういう仕事をすると、会いたい人に会いにいくことができるからいいなと思っています。

【4】どうして「好きを仕事に」するのか

常見 陽平氏はあちゅうさんは「好きを仕事に」することを主張してされていますよね。やりたいことをやるんだ! と。

キャリア論では「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」の3つの輪を考えるというものがあります。
リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長などが指摘しているのですが、日本型キャリアだと「やりたいこと」よりも「やるべきこと」をやっていると、「できること」が増え、「やりたいこと」が見えるとも言われています。それを踏まえて、ぼくは「やりたいこと」からはじめることに疑問があります。

常見 陽平氏

はあちゅう氏私がそう言うのは、自分の「好き」を仕事にしたら幸せになれたからです。自分の好きなことなんて仕事にできないと思っていた時期は、すごく苦しかったし、自分を偽っていました。お給料は我慢料だと思っていました。でも自分の好きを仕事にしたら、お金も稼げるようになったし、幸せになった。お給料は「我慢料」ではなく「拍手の数」だと思えるようになりました。
そこから、お金への罪悪感もなくなりました。我慢料だと、使うのがつらくなる。拍手の数だと思うともっと集めたいと思えると同時に、他の人にも拍手を流していきたいと思えるようになりました。

常見さんがおっしゃるように、世の中いろんな生き方があると思いますが、自分にとっての正解しか私は知りません。でもこれだけ多くの人とネットでつながっている世界であれば、私と同じバックグラウンド、コンプレックス、理想を抱えている人もいると思います。

「はあちゅうサロン」の会員やフォロワーさんが「なにかやりたい」という気持ちがあるなら、そこにティンカーベルのように魔法の粉をかけてあげたい。私は、飛び方は教えられないけど、飛ぶ勇気を引きだしてあげることはできると思っていて。おもいきってやってみようという気持ちになったら、そこからその人の人生が切り開かれていくんじゃないかなと思います。

常見 陽平氏ご自身の経験からおっしゃっているのですね。
私、それでも「やるべきこと」「できること」を意識するのは大事だと思うのですが。ただ、これは経営学でいう「リソース・ベースト・ビュー」なのですよね。つまり、自社の資源や強みを意識する、と。ただ、これを極度に進めるとチャンスを失ってしまうことがある。それに対して「ポジショニング・ビュー」という考え方があります。さまざまなポジションを考慮して選ぶ。無謀なようで、商機を逃しませんし、リソースはあとからついてくる、と。
「とりあえずやっちゃえ」という人は、無謀なようで、先行者利益を得られる可能性があるという意味では間違っていない、と。これは、はあちゅうさんのおっしゃっていることと似ていますよね。

はあちゅう氏論理的にできるような仕事は取られ切っていると思います。これから新しいことをしようと思ったら「好き」とか「情熱」に向かっていった方が、近道だと思うのです。
ZOZOの経営者前澤友作さんも、ZOZOスーツを作る時に市場を調べず、自分にとってスーツはカスタムされていてほしいという想いから始まったそうです。だから自分のプロダクトに自分が一番熱狂出来て、ファンになれる。やはりこれからは情熱のある人がビジネスの主導権を握っていくのではないかというのが、私の見方です。

常見 陽平氏これからはあちゅうさん自身が最前線で営業することはあるのでしょうか。

はあちゅう氏

はあちゅう氏今のところは、「THE営業」という感じでぐいぐいやることはないかもしれません。でも必要になったらやります。「自分はもう売り込みをしたくない」と凝り固まってしまうと、新しいことは起きなくなってしまう。あまり自分をブランディングしすぎず、プライドの高い女にならないように気を付けているんです。
営業に限らず、「この人、こんなこともするんだ」と思われた方が、自分は前進しているんだと思っています。

常見 陽平氏これからもはあちゅうさんの前進に期待ですね! 今日はありがとうございます。

常見 陽平氏

まとめ

はあちゅうさんとは何度かお会いしたことがあるのだが、じっくり話すのはこれが初めて。ネット上で注目を集め、時に炎上騒動なども話題になるのだが、実際にお会いするたびに感じることは「ちゃんとしているなあ」ということ。一度、Abema TVの千原ジュニアさんの番組でご一緒した時も、出演者の控室の挨拶周りをする様子に胸を打たれた(私は、ドーンと自分の控室にいるだけだった、えらくもないのに)。
今回のインタビューでもコメントがあるように、締め切りを守る、時間を守る、即レスをするなど、信頼の積み重ねを大事にしている。もちろん、時に賛否を呼ぶ発言もある。彼女の言うことは全員から支持されるわけではない。私も今回のインタビューでの彼女の意見や、著書の内容のすべてに賛同しているわけではない。ただ、意外に(?)ちゃんとしていることも含めて、彼女にファンがつくのだろう。
彼女は別に「炎上の女王」ではない。そして、彼女の表面的な部分ではなく、「意外にちゃんとしている」点も営業パーソンは見習うべきではないか。

はあちゅう 著書

『「自分」を仕事にする生き方』
「自分が幸せになれない仕事は手放していい」「仕事を選ぶ時「世間体」は捨てる」「お金を目標にしなくなってからが本番」言い訳だらけの人生から脱出するために、ブロガー・作家のはあちゅうが実践している極意を書き綴った一冊。はあちゅうに背中を押され、あなたもこれから何かはじめたくなるかも。

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文:山本 ぽてと  写真:山本 中

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この記事の情報は公開時点のものです。

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この連載の著者

常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師。いしかわUIターン応援団長。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。