大西 芳明氏インタビュー伝説となった1日304件の飛び込み営業…。やり抜いた先に見えた“営業しない”営業のススメ

大学時代から飛び込み営業でアルバイトながら営業所長を務めるなど、若いころから営業における非凡な才能を発揮していた大西 芳明氏。
1日300件を超える飛び込み営業を実行したという伝説だけでなく、断腸の思いで会社を清算するという苦い経験も持つ大西氏が考える、究極の営業とは?自身の経験から得られた学びについて詳しく語っていただきました。

大西 芳明氏

【1】入社1年で最初の転職、社長として会社清算の経験…これまでの経歴

ご自身の経歴について教えていただけますでしょうか。

大西 芳明氏1984年に立命館大学を卒業し、当時やっていたアルバイトの関係で、専門商社として350年の歴史を持つ湯浅商事株式会社(現 ユアサ商事株式会社)に入社しましたが、わずか1年で株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に転職しました。
実は、たまたま高校の同級生がリクルートに転職し、彼から「商社に面白いやつがいる」という紹介で、リクルートの方に引き合わせてくれたのです。ただ、商社1年目で楽しく仕事をしていましたし、転職するつもりはまったくありませんでした。
でも、お会いした方から翌日に再び連絡をもらい、そこから8回も名古屋に足を運んでいただくことに。結果として根負けしたのが正直なところです(笑)。

リクルートに入社した時は中古車情報を扱う「カーセンサー」に配属され、7年近く経過した後に現業系専門の求人情報誌「ガテン」の創刊直後に大宮の営業所長として赴任しました。
その後、立ち上げた販社への出向や、社内での新たな部署と営業部隊の立ち上げを経験ました。
そして1999年9月にリクルートを卒業(退職)することになったのです。

リクルートを退職してからは、どうされたんでしょうか。

大西 芳明氏以前からやってみたいと思っていた会社の経営を、とある方の紹介で始めました。その会社はアウトバンド系で営業を行うコールセンター事業が中心だったのですが、結果的に会社を清算することに決めました。
実はオーナーが抱えていた借金問題で粉飾騒動が起こったことが原因でしたが、私のために株主になってくれた方に迷惑はかけられないと自分で判断して、弁護士と相談の上で、オーナーに許可なく破産手続きを行ったのです。
当時は41歳でしたが、本当に路頭に迷うことになった。ここが大きな人生の転機の1つと言えますね。

その後、知り合いからの紹介で株式会社キャリアデザインセンターに専務として赴任し、株式会社パソナなどでは、派遣請負事業の営業や販売を手掛がる事業の役員を務めました。
ちょうどそのころに「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」(出版 経済界)を出版しました。

書籍「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」

なかなか波乱万丈の人生ですね。その後に株式会社楽天にジョインするわけですね。

大西 芳明氏出版した本をいろいろな方に配っていたのですが、その1人が楽天の三木谷社長でした。実は、リクルート時代に日本興業銀行(当時)を退職したばかりの三木谷さんに出会っており、その後も交流が続いていました。
そこで出版した本を送ったところ、久しぶりに会おうということに。

一緒に食事をしながらいろんな話をしたのですが、ちょうど楽天が10周年を迎える中で事業のグローバル化も含めて新たな変化をしていく段階にあるとのことで、意気投合してジョインすることになりました。
それがきっかけとなって楽天にお世話になり、取締役として三木谷さんを補佐しながら、経営企画室室長や楽天市場事業の副事業長、楽天クーポン株式会社の代表取締役を経験し、2015年に同社を退職。
そして今の会社である株式会社セールスヴィガーを設立しました。

【2】大学1年から営業で頭角をあらわすも、ボロボロになった社会人1年目

大西 芳明氏

長年営業してきた中で、工夫したことってどんなことですか。

大西 芳明氏実は、営業自体は大学1年のころからやっていたんです。
具体的には、一般家庭に教材を販売する飛び込み営業で、歩合制のアルバイトでした。もともと父親が事業をしていた関係で、自分も事業をしたいと思っていたのですが、当時から商売の原点は営業だと思っていました。
例えば経理の人間でも銀行に営業をする必要があるわけですし、人事であれば採用時に人に対して自社を売り込む営業をする。実は全員が営業担当になる必要があるのです。

だからこそ、自分で商売をやるためには、最前線でお客さんに接して学んでいく必要があると当時から考えていました。
しかも、完全歩合ですから、売れる分だけアルバイト代が稼ぎ出せますし。多い時では今の月収よりもいただいていたかと。
それなりに売っていたこともあり、大学4年のころにはアルバイトながら神戸営業所の所長を務めることにもなりました。

大学1年から飛び込み営業をしていたとは!売り上げを上げるコツはどんなところにあったのでしょうか?

大西 芳明氏最初は家の呼び鈴を押して教材の説明をしようとしても「うちには子供がいません」なんてことも。そうすると、今度は玄関口に子供の自転車があるかどうか、確認してからベルを鳴らすようになる。
つまり学習効果というやつですが、だんだん考えることの重要性に気づくわけです。
そこで、誰が一番困っているかを考えたところ、自分自身の体験もあり、運動部の学生で受験が近づいて焦っている2年生や3年生をターゲットにしようと思いつきました。

そこで、運動部に所属していそうな学生を狙って学校の校門で待ち伏せして声をかけ、私自身の中学時代の成績表を見せつつ、いい勉強方法があると説明するわけです。当然学生は困っているわけですから、効率よく成績が上がる勉強法を知りたくなる。
本気でやりたいという学生に絞り、その学生と一緒に帰宅する形で家庭訪問。本人の意思を両親に説明しながら、自身の体験をベースに教材の説明をしていくわけです。

誰かを真似たのではなく、ご自身でその方法を編み出すというのはすごいですね。

大西 芳明氏お客さんの反応が変わることが好きだったんだと思います。実際には、教材は買わないけど家庭教師をしてよと言っていただける方もいました。
いずれにせよ、そこで学んだのは、個人でも法人でもそうですが、お客さまとの距離感が縮まらない限りは、何を聞いても何を言ってもコトが進まないということです。

実は、そんな心持で300年以上の歴史を持つ老舗企業の湯浅商事に入社したので、最初は数万点以上ある商品を覚えるためにお客さまからの見積もり対応や在庫確認、クレーム対応など内勤の電話営業に配属され、とてもつらかった。
歴史がある企業ですので、多くの販売店や卸売りを担当するような営業が中心で、新規営業なんて新人には全くやらせてもらえなかったのです。

書籍「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」
写真は「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」(出版 経済界)より

どうしても営業をやりたかったわけですね。

大西 芳明氏電話の応対ばかりで、私自身ボロボロになっていったのですが、そこでふと思いつくわけです。自分の数字にはならないものの、先輩の数字につながるのであれば、電話でも営業できるんじゃないかと。
そこで、単に見積依頼で終わらせるのではなく、もっと踏み込んでいこうと思い立つわけです。
そこから、会ったこともない人から電話がかかってくるたびに距離感を縮めるためにプライベートな話もしながら、誰よりも電話を取ってスピーディに見積を返信し、その後のフォロー電話もしっかり入れるということを繰り返し行っていったのです。

そんな営業活動を地道に続けているうちに、直接話をしたこともない雲の上の存在だった名古屋の支店長から呼び出され、「今日から営業にいきなさい」と業務命令が下ったのです。
実は自分が日ごろから電話応対していた、とあるメーカーの支店長が「大西君は営業に出すべきだ」と支店長に進言して下さったんです。
見ていてくれる人はいるんだなと思ったものですが、それが契機となって1年目から営業をさせてもらえることになったのです。
ただ、結局1年でリクルートに転職することになるのですが(笑)。

【3】ズボンが破れて袴のように…1日304件の飛び込みから見えた営業の極意とは?

リクルートで1日304件飛び込み営業したという伝説も聞いています。これは本当なんですか?

大西 芳明氏大宮営業所で所長をしていたころの話ですが、本当です(笑)。
実はガテンが創刊の時期だったこともあり、営業として今一番やるべきは、売ることよりもお客さまにガテンを認知してもらうこと、営業には宣伝担当の役割があるということをメンバーに伝えたかったのです。しかも、立ち上げ当時は赤字事業で予算もない。
その状況で認知度を上げるためには、営業パーソンが地元のお店を数多く回ることが大切だということを知ってもらいたかった。

そこで、部下と2人朝8時に草加の駅に集まり、名刺とガテンのパンフレットをカバンに忍ばせ、お店に入って配りまくったのです。郵便配達は「郵便です」、新聞配達は「朝刊です」と一声かけるのであれば、我々は「飛び込みです」って一言かけようなんていいながら(笑)。
しかも、再訪するときのためにも、“店内にいた犬に吠えられた”といった訪問したお店の特徴をすべて大学ノートに書き出していきました。
ちなみに、もともと300件を目標にしていましたが、真夏の7月に実行したために最後のほうは意識がもうろうとなり、もし数え間違いしているとショックが大きいと、4件多めに回ったというのが304件の実態です。

タウンワーク社員×ガテンイメージ
写真はイメージです。タウンワーク社員×ガテン(リクルートホールディングス発行:一部の地域で配布)であり、本文中のガテン当時とは体裁は異なります。

すごい体験ですね。周囲の反応はどうでしたか?

大西 芳明氏この日は炎天下の中での飛び込みで、スーツのズボンが裂けて袴みたいになったほど過酷でした。スーツが汗で真っ白になり、飛び込んだ先の方に心配されるほど。
でも、300件を達成するためにはすぐ次に向かう必要があるため、とにかく時間がないのでと告げると“いいから座って水でも飲んでいきなさい”と引き留められ、向こうから何をしている人なのか聞いてくれる人も。
新しい本が出たので、求人広告を載せて採用に役立ててもらいたいということを説明すると、いいことしているねと褒めてくれる。最後は頑張ってねと手を振ってくれる人までいて、これはますます頑張らないといけないと思いました。

何とか300件を訪問して、夕方営業所に戻る前に、営業所に達成を告げる電話を入れたところ、電話の向こうで歓声が上がったのを覚えています。
ぼろぼろになったスーツの代わりに新しい服を調達して営業所に戻ると、中には泣いているメンバーも。もうみんな雰囲気が違うわけです。
やればできることを証明できたことで、その後、みんなの飛び込み件数が増えていったのです。

書籍「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」
写真は「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」(出版 経済界)より

そんな経験の中での気づきはありましたか?

大西 芳明氏ここで面白いと思ったのは、普通は買ってもらおうと思って飛び込みするため、ある意味お客さんを追いかけるわけですが、その日は認知してもらうことが目的だったため、売り込みをしている暇はなかった。
しかし、パンフレットに挟んでいたFAX番号を書いたアンケート用紙が十数件返ってきたんです。すぐにフォローに行って10本程度受注することができました。

ここで悟ったのが、「お客さまは追いかけたら逃げる。逆に、営業しなかったら追いかけてくる」ということです。
本の中にも書きましたが、“究極の営業は営業しないことと心得るなり”というのは、この体験から来ています。本当の営業は向こうからくる。
そんな世界観を目指さないといけないのではないかと考えています。

【4】営業は感動職である!営業を楽しく毎日続けるコツとは?

ご自身が考える人生の転機ってどんなことでしょうか。

大西 芳明氏1つはビジネスに対する姿勢や切磋琢磨する文化に触れたリクルートとの出会いですが、やはり大きかったのは会社の清算ですね。当時は41歳でしたが、そんな時には潮が引くように知り合いが遠ざかっていきました。それでも、応援して下さる方がいました。
リクルート時代は「どうにもならない時でも歯を食いしばって頑張るんだ!」と部下を鼓舞していましたが、そんな偉そうなことを言っていた自分が恥ずかしくなった。メンバーにもそれぞれ事情があってつらい思いをしていたんだなというのをしみじみと感じたのです。
でも、こんな時こそ自分も頑張らないといけないと思い直し、何とか歩みだすことができました。

ここでも、本物の人間関係は変わらないんだというのを痛感しました。
尊敬する方が「いい時にみんなが寄ってくるのは当たり前で、営業は、相手が左遷されたり降格したりした時にこそ声をかけるべきだ」とおっしゃっていたのを思い出します。
打算的な話ではなく、そうするとまわりまわって自分に返ってくるもので、そういう1つひとつのご縁を大事にしないといけないということを、改めて学んだ出来事です。

「営業LIVE®」というイベントをされていますが、どんな課題を持っている方が参加されていらっしゃるんでしょうか。

営業LIVE®のパンフレット

写真は営業LIVE®のパンフレットより。2017年11月に第10回を迎えた。

大西 芳明氏例えば新人をターゲットにした営業LIVE®では、半年程度経過して現場に慣れてきたものの、全然売れない、お客様に話を聞いてもらえない、もっと言えばアポがとれないという状況の方に多く参加してもらいました。
売れる自分を思い描いていたものの、現実はそうなっていないことで自己否定し、自信を無くしています。上司からいろいろ言われても耳に入ってこず、理解はするものの腹落ち感がない状況にあるのです。

そんな心持の中で営業LIVE®に参加すると、苦しみながらも一歩踏み出している同世代の人が次々と登壇してきます。自己否定されてトイレで泣いても立ち向かっている、そんな同世代の話を聞くと、自分だけじゃない、私と一緒だと共感する。
苦しい思いの中でも何でこんなに笑顔でいられるのか、なぜ困難でも立ち向かえるのか、私との違いは何だろうと、他の会社の同期から気づかされるわけです。
そうすると、普段上司が言っていることと結局一緒だということがだんだん分かってきます。

女性をメインにした営業LIVE®もあると聞いています。

大西 芳明氏先日開催したのですが、女性の場合は見えない世界に対する不安が大きいようです。端的に言えば、営業の仕事をしていて、いずれは結婚も出産もしたいが、本当に営業を続けていけるのかというもの。
子供が熱を出した時はどうするんだろう、といったかなり具体的な話もありました。でも、まだ結婚もしていないし、話を聞いてみると彼氏もいない、なんて人も(笑)。

これは、会社の中に女性のロールモデルがいないということが大きな要因の1つです。
私がいたリクルートや楽天などは多くの女性が営業として活躍していますが、規模の小さな会社の場合多くはなかなか相談できる人もおらず、しかも上司は男性ばかり。
そこで女性向けの営業LIVE®では、営業として活躍している女性に登壇いただき、“独身時代に準備しておくべきこと”といった話も含めて女性ならではの視点で話をしてもらいました。

営業LIVE®のパンフレット

最後に、営業を楽しく毎日続けるための秘訣をアドバイスいただけますか。

大西 芳明氏営業は常に新しい方との出会いがあり、これは経理や人事の方にはない魅力の1つ。たくさん会ううちに、一生おつきあいするようなお客さまに出会うこともある。
その出会いを大切にするためにも、営業は感動職であるべきだと思っています。
厄介なお客さまに出会ったとしても、そのつらいことが成功へのプロセスと考えてみることが大切です。

また、幸せの基準を落とすべきだと思います。
営業をする中で、“受注”という高い基準に幸せを置いてしまうから毎日傷つくわけで、名刺をいただけてありがたい、声をかけてもらえてうれしいと感じられるようになって欲しいですね。受注することが基準だと営業の毎日を楽しむことは難しいと思います。これは人生も同じです。

ためになるお話、ありがとうございました。

大西 芳明 著書

「サムライ営業 すぐ売れる技術より、売れ続ける極意」(出版 経済界)
営業における心がけやモチベーション維持などについて説明した基礎編と、事前準備から帰社後までにやるべきことまで詳細に語る実践編まで、営業という職種を極めるためのノウハウを余すところなく解説。ビジネスにおけるコミュニケーション能力の重要性を説きつつ、究極の営業とは何かを著者の経験を交えながら解説。

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文:酒井 洋和  写真:編集部

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この記事の情報は公開時点のものです。

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